W-OAM

W-OAM (ダブリュ・オーエーエム)とは

W-OAMは、かつてY!mobile（旧ウィルコム）が提供していた高度化PHS通信サービスの名称です。正式名称は「WILLCOM Optimized Adaptive Modulation」で、PHSの通信規格を改良し、データ通信の高速化とカバーエリアの拡大を目指しました。

概要

W-OAMは、従来のPHS規格の変調方式を高度化することで、データ通信の速度向上と、屋内での電波浸透性の改善を実現しました。これは、次世代PHSと呼ばれていたXGPとは異なる技術です。

W-OAMを利用するには、W-OAMに対応した端末と基地局が必要でした。非対応の基地局に接続した場合は、従来のPHS 変調方式（1x/32kbps）で通信が行われました。ここでいう「1x」とは、リンク数（束ねるマルチリンクの数）が1であることを示しています。

W-OAM対応エリアは、都市部の高トラフィックエリアを中心に拡大していきました。

通信においては、電波状況に応じて最適な変調方式を自動的に選択する「適応変調」が採用されました。電波状態が良い場合は高速な変調方式、悪い場合はエラーに強い低速な変調方式が利用されました。

さらに、通信量増加に対応するため、NTT交換局内にITX（Ip Transit eXchange）というトラフィックバイパス装置を設置し、独自のネットワークを構築しました。これにより、NTTへの接続料を削減することが可能となりました。

通信方式

従来のPHSの変調方式はπ/4 shift QPSK（1x/32kbps）でしたが、W-OAMでは、8PSK（1x/51kbps）とBPSK（1x/13kbps）が追加されました。一般的に、π/4 shift QPSKはQPSK、D8PSKは8PSK、π/2 shift BPSKはBPSKと記述されることが多いです。

W-OAM

2006年2月23日にサービスが開始されたW-OAMでは、従来のQPSKに加え、高速な8PSKと、エラーに強いBPSKが採用されました。W-OAMは、データ通信専用端末だけでなく、W-SIMや一部の音声端末にも導入されました。

対応チップセットとしては、AX20Pシリーズ（P2チップセット）やML7257がありました。

W-OAM typeG

変調方式	1x	2x	4x	8x
-----	-	-	-	---
QPSK	32kbps	64kbps	128kbps	256kbps
8PSK	51kbps	102kbps	204kbps	408kbps
BPSK	13kbps	26kbps	52kbps	104kbps
16QAM	63kbps	126kbps	252kbps	504kbps
32QAM	80kbps	160kbps	320kbps	640kbps
64QAM	100kbps	200kbps	400kbps	800kbps

2007年4月5日にサービスが開始されたW-OAM typeGでは、W-OAMの変調方式に加え、さらに高速なQAM変調方式が導入されました。各変調方式でのレートは以下の通りです。

16QAM（1x/約63kbps）
32QAM（1x/約80kbps）
64QAM（1x/約100kbps）

W-OAM typeGでは、高速化と同時に、適応変調の切り替え速度の高速化とRTT（ラウンドトリップタイム）の改善も図られました。

対応チップセットは、AX30Pシリーズ（P3チップセット）で、最大2Mbpsの通信が可能でした。

通信速度

変調方式とチャンネル多重数を組み合わせることで、高速化が実現されました。

変調方式 1x 2x 4x 8x
----- - - - ---
QPSK 32kbps 64kbps 128kbps 256kbps
8PSK 51kbps 102kbps 204kbps 408kbps
BPSK 13kbps 26kbps 52kbps 104kbps
16QAM 63kbps 126kbps 252kbps 504kbps
32QAM 80kbps 160kbps 320kbps 640kbps
64QAM 100kbps 200kbps 400kbps 800kbps

注）

無線区間とは基地局～端末間
白地は現行PHSにおける通信方式（～8x）。
赤地の太字はW-OAMにおいて追加される通信方式。
緑地の斜字はW-OAM typeGにおいて追加される通信方式。
PSK(phase shift keying)=位相偏移変調
QAM(quadrature amplitude modulation)=直交振幅変調

ただし、エントランス回線がISDNの場合、スループットは最大512kbpsに制限されるため、光回線などのIP回線化が必要でした。

また、W-OAM typeGでは、1xの場合、最大64kbpsに制限されていました。

音声通話におけるW-OAM

音声通話では、従来のQPSK（32kbpsADPCM）に加え、BPSK（16kADPCM）も利用されました。これにより、通話時の移動耐性と屋内浸透性が向上しました。

対応端末

W-OAMおよびW-OAM typeGに対応した様々な端末が発売されました。

データ通信端末
W-OAM対応：AX520N, AX420N, AX420S
W-OAM typeG対応：AX530S, AX530IN
音声端末
W-OAM対応：WX130S, WX220J, WX321J, WX320K, WX320KR, WX320T, WX330K, WX331K, WX331KC, WX333K, WX334K, WX334K P, WX330J, WX330J E, WX340K, WX341K, WX341K P, WX350K, WX01A, WX02A, WX03A, WX05A, WX06A, WX01J, WX01JR, WX01NX, WX01K, WX02K, WX03K, WX05K, WX07K, WX08K, WX09K, WX11K, WX01S, WX02S/XWX02S, WX03S, WX04S, WX01SH, WX02SH, WX03SH, 301JR, 301KC, 401AB, 401KC
W-OAM typeG対応：WX12K, 402KC
スマートフォン
W-OAM対応：WX04K
W-OAM typeG対応：WX10K, WX04SH, WX05SH
[W-SIM]
W-OAM対応：RX420AL, RX420IN
W-OAM typeG対応：RX430AL
W-OAM対応W-SIMが接続可能なSIM STYLE端末
データ通信端末：WS002IN, WS008HA, WS014IN
音声端末：WS001IN, WS003SH, WS004SH, WS005IN, WS007SH, WS009KE, WS011SH, WS016SH, WS018KE, WS020SH, WS023T, WS027SH
その他端末
WS024BF（モバイルWi-Fiルータ）
WS026T（ブラウジングデバイス）

料金

W-OAMおよびW-OAM typeGの利用に追加料金は発生せず、従来の料金プランで利用可能でした。パケット従量課金制の場合、高速化により単位時間あたりのパケット消費量が増加しましたが、総パケット量は変化しないため、ダウンロード時間の短縮に繋がりました。ただし、利用状況によっては料金が増加する可能性がありました。

その他

中継基地局であるホームアンテナは、W-OAM/typeGや8xパケット通信には対応していませんでした。ただし、W-OAM/typeG通信では、BPSK変調により、低ビットレートながら屋内浸透性を向上させた通信が可能でした。

脚注

[1] WS003SH: W-ZERO3
[2] WS004SH: W-ZERO3
[3] WS005IN: nico.
[4] WS007SH: W-ZERO3 [es]
[5] WS009KE: 9(nine)
[6] WS011SH: Advanced/W-ZERO3 [es]

関連項目

高度化PHS
PHS
ウィルコム
AIR-EDGE

外部リンク

WILLCOM - データ通信サービスの高速・快適化について〜PHS高度化通信規格「W-OAM」の導入〜

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