高感度地震観測網

高感度地震観測網（Hi-net）について

高感度地震観測網（Hi-net）は、日本全国の地震活動を詳細に捉えるために、防災科学技術研究所によって整備された地震観測ネットワークです。約20km間隔で配置された高感度地震計が、24時間体制で微弱な揺れを捉え続けています。

Hi-netの目的

Hi-netの主な目的は、以下の通りです。

地震現象の解明と地震発生予測
地震動の解明と地震動予測
地震による災害軽減のための地震調査研究の推進

これらの目標を達成するため、Hi-netは以下の観測を推進しています。

1. 地震観測
陸域における高感度地震計による地震観測（微小地震観測）
陸域における広帯域地震計による地震観測
2. 地震動（強震）観測
3. 地殻変動観測（GPS連続観測）
4. 陸域及び沿岸域における活断層調査

Hi-netの配置と整備

Hi-netは、以下の基本方針に基づいて整備されています。

日本全国に約20kmメッシュを基本として観測点を配置（全国で約1,000点）。
気象庁や国立大学等の既存観測点の近傍を避け、観測空白地域を優先的に配置（新設約500点）。
上記の配置後、既存点の観測能力を見直し、必要な更新を実施。離島への観測点配置。

Hi-netは、1978年から1983年にかけて整備された東海地震の前兆現象観測を目的とする「関東・東海地殻活動観測網」をモデルとして構築されました。

観測施設

各観測点には、以下の機器が設置されています。

高感度地震計（または強震計を併設）
観測データ伝送設備
傾斜計
GPS変位計

観測点の選定は、以下の点を考慮して行われます。

地質・地形条件：軟弱な地盤や断層破砕帯付近を避け、堅牢な岩盤を選定。
社会・環境条件：巨大振動源、高圧送電線、高速道路、幹線道路、鉄道、急流から一定距離を確保。
現実的な条件：建設コスト、電源・通信回線の確保、重機搬入の可否、長期安定観測の可能性。

このため、観測点は学校、公有地、地域自治会保有地などに設置されることが多いです。また、適切な立地条件の土地が見つからない場合は、施設は建設されません。

地震計の種類

高感度地震計：固有周期1秒の3成分（上下、東西、南北）の地震計を地表と地中（深さは観測点ごとに異なる）に設置。微小な震動を捉えることが可能ですが、生活ノイズや自然現象の影響も受けます。
強震計：近くで発生した大きな地震でデータが飽和しないように、強い震動でも計測できる地震計を設置。
地中用地震計：全長約3mの耐圧容器に収納された地震計を、堆積層下の基盤に達するよう掘削した観測井に設置。通常100～200m程度の深さに設置されますが、観測条件が悪い場合は1000m級になることもあります。最深はさいたま市岩槻区の3510m。

観測点に停電が発生した場合は、バッテリーにより最長50分間のデータ伝送と最長22時間のデータ収録が可能です。

Hi-net整備の背景

阪神・淡路大震災の教訓から、地震調査研究を推進する『地震防災対策特別措置法』が1995年に制定されました。Hi-netは、この法律に基づく「地震に関する基盤的調査観測計画」の一環として整備されました。

Hi-net整備以前は、気象庁や大学、防災科学技術研究所などが各々の目的に合わせて観測網を独自に整備・運用していたため、観測網が特定の地域に偏重し、地震動の観測能力や配置にばらつきがありました。Hi-netは、この問題を解決し、全国で均質な観測を行うために整備されました。

Hi-netの成果

Hi-netの整備により、以下の成果が得られました。

微小地震の観測能力が向上：観測回数が大幅に増加（1994年以前の年間3万回程度から、2001年には12万回程度に増加）。
深部低周波地震やスロースリップの発見：堆積歪み計などを併用した観測と高精度なデータ解析により、周期の長い震動も捉えられるようになった。
AQUAシステム（高精度即時震源パラメータ解析システム）：リアルタイムに伝送されるHi-netデータを用いて、短時間で震源位置と規模を推定するシステム。緊急地震速報に応用。
強震モニタ：Hi-netに併設された強震観測網のデータから、現在の揺れをほぼリアルタイムで可視化するWebサービス。

類似の観測網

F-net：日本全国に整備された広帯域地震観測網。
K-NET：全国の地表に設置された強震観測網。
KiK-net：全国の地盤に設置された強震観測網。
気象庁：全国に約200箇所の地震観測点。
GEONET：国土地理院によるGNSSを利用したリアルタイム変動観測網。

Hi-netの沿革

1995年：兵庫県南部地震発生。地震防災対策特別措置法が公布。
2000年：全観測点における連続波形モニタリングデータの可視化を開始。
2005年：糸魚川-静岡構造線断層帯の調査研究と気象庁から移管された観測点を加え13箇所の観測点が追加。

東日本大震災の影響

東北地方太平洋沖地震の際には、宮城県、福島県、茨城県の観測点を中心に停電やデータ伝送のトラブルが発生し、観測データの送信が遅延しました。この反省から、予備サーバーの設置や観測点停電時の稼働時間延長などの対策が講じられました。

また、津波により観測施設が被災したため、いくつかの観測点が廃止されました。

出典

防災科学技術研究所
Hi-net整備概要
高感度地震観測の革命－防災科研 Hi-net－ (PDF) 日本地震学会広報誌なゐふる43号

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