高松凌雲

高松凌雲：幕末から明治を駆け抜けた医師の生涯

高松凌雲は、1837年（天保7年）に現在の福岡県小郡市で生まれました。農家の出身でありながら、持ち前の才能と努力で幕臣医師としての地位を築き上げ、日本の近代医療史に大きな足跡を残した人物です。本稿では、彼の生涯と業績について詳細に解説します。

農民から幕臣へ

凌雲は、幼少期を農家で過ごしました。19歳の時、久留米藩家老の陪臣の養子となり武士となりましたが、養家の状況に失望し、脱藩。兄を頼って江戸へ行き、医師を志します。

彼は、蘭方医として有名な石川桜所や緒方洪庵に師事し、西洋医学を徹底的に学びました。さらに、オランダ語と英語を習得するなど、並外れた学習意欲と能力を発揮しました。その才能は一橋家に認められ、専属医師として抜擢。その後、徳川慶喜が将軍になると、幕府の奥詰医師にも任命されます。

パリ万博とフランス留学

1867年（慶応3年）、日本はパリ万国博覧会に参加しました。凌雲は、西洋医学の知識と語学力を買われ、日本代表団の随行医として派遣されます。万博後、幕府の支援を受けてパリに留学。オテル・デュウという病院併設の医学学校で研鑽を積み、特に貧民病院での無料医療に感銘を受けました。

箱館戦争と赤十字精神

しかし、留学生活は長く続きませんでした。戊辰戦争の勃発により、凌雲は帰国。すでに幕府は崩壊しており、彼は旧幕府軍に参加し、箱館戦争に従軍します。箱館病院の院長に就任し、敵味方を問わず治療にあたりました。この活動は、日本の赤十字運動の最初の事例と言われています。

箱館戦争終結後、凌雲は新政府軍の傷病兵の治療にも従事しました。しかし、その後「賊徒の医師」として一時的に謹慎生活を送ることになります。

明治時代の活動：同愛社の設立

明治3年、凌雲は東京で開業医として活動を始めました。政府からの要職の誘いを断り、町医者として「神の家」で学んだ精神を貫きました。

彼は、貧民への無料医療の必要性を痛感し、医師会会長として同愛会の設立を提案。1879年（明治12年）、民間救護団体の前身となる同愛社が創設されました。同愛社は、多くの貧しい人々に無料の医療を提供しました。

晩年と功績

凌雲は、1916年（大正5年）に肺結核のため亡くなりました。旧幕臣であったことから、長らくその功績は十分に評価されてきませんでしたが、近年になってその生涯と業績が見直されています。彼の活動は、日本の近代医療の発展に大きく貢献したと評価されています。

凌雲が残したもの

高松凌雲の生涯は、農民から幕臣、そして近代日本の医療を支えた医師へと、社会階層を超えた驚くべき人生でした。その活動は、赤十字運動の先駆けとしてだけでなく、貧しい人々への無料医療という現代社会にも通じる重要なテーマを提示しています。彼の行動力、博愛精神、そして高い医療技術は、今もなお多くの人々に刺激と勇気を与え続けています。彼の功績は、単なる歴史の一場面としてではなく、現代社会における医療のあり方、ボランティア活動、そして国際協力の在り方を考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

もう一度検索