高橋裕 (作曲家)

高橋 裕（たかはし ゆたか）

高橋 裕は、1953年8月20日京都府に生まれた、日本の現代音楽作曲家です。その音楽は、師からの影響を受け継ぐ力強い表現と、日本の豊かな伝統文化への深い敬愛が融合した独自の響きを特徴としています。

幼少期から音楽に親しみ、京都教育大学名誉教授であった父、恒治からピアノとソルフェージュの手ほどきを受けました。この家庭環境が、後の音楽家としての基盤を築くことになります。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校に進学し、野田暉行、永冨正之に師事。東京藝術大学音楽学部作曲科、そして同大学院作曲専攻へと進み、そこで松村禎三、矢代秋雄、尾高惇忠、宍戸陸郎、大学院では黛敏郎といった日本の主要な作曲家たちに師事しました。特に松村禎三からは、大学の正規の教えに加え、自宅に滞在して指導を受けるなど、極めて親密な薫陶を受けました。また、中学生の頃からは松村の紹介で池内友次郎や山田光生に和声学を学んでいます。

高橋氏のキャリアは、大学院修了間もない1980年に早くも注目を集めます。修士修了作品「Sinfonia Liturgica（シンフォニア・リトゥルジカ）」が、日本交響楽振興財団第2回作曲賞に入選。この時のもう一人の入選者は、同じく1953年生まれの吉松隆であり、彼らを含め西村朗、菅野由弘、野平一郎といった同世代の作曲家たちは、松村禎三や黛敏郎、武満徹ら戦後世代に続く、現代音楽における重要な世代を形成しています。

その後も国際的なコンクールや国内の権威ある賞を次々と受賞し、作曲家としての評価を揺るぎないものにしていきます。1983年には「般若理趣交響曲」が世界仏教音楽祭コンクールで第1位を獲得。1987年には「弦楽四重奏曲」が国際カール・マリア・フォン・ウェーバー室内楽コンクールで第1位、そして1991年には「Symphonic Karma（シンフォニック・カルマ）」で第1回芥川作曲賞を受賞しました。

その作風において、出世作である「Sinfonia Liturgica」は、本人曰く「圧倒的なフォルティッシモのユニゾンに始まり、音響や旋律による様々なオスティナートが渦巻く」楽曲であり、これは師である松村禎三、さらにその師である伊福部昭から受け継がれた、力強く反復的な「オスティナート」の技法が色濃く表れています。

もう一つの重要な特徴として、日本の伝統音楽への深い関心と、それを自身の音楽に取り込む積極的な姿勢が挙げられます。これは、藝大生時代から約20年にわたり宝生流能楽師の寺井良雄に師事し、能の謡や仕舞の稽古を続けた経験に深く根ざしています。雅楽の笙、箏、琵琶といった邦楽器や能そのものをオーケストラと組み合わせた作品を数多く手掛けており、オーケストラ・アンサンブル金沢からの委嘱によって作曲された「笙とオーケストラのための『風籟』」（1992年、同オーケストラの特別賞受賞）、「能とオーケストラのための『葵上』」（2006年）、「能とオーケストラのための『井筒』」（2008年）、「琵琶とヴィオラ、オーケストラのための『二天の風』」（2013年）などがその代表例として挙げられます。

高橋氏の作品は国内のみならず、ISCMワールド・ミュージック・デイズ（1992年ワルシャワ、1993年メキシコなど）をはじめとする国際的な音楽祭でも演奏され、世界各地で好評を博しています。また、作曲・演奏活動に加え、教育者としても長年にわたり後進の指導にあたっており、東京藝術大学音楽学部および附属音楽高等学校、名古屋音楽大学特任教授、大阪芸術大学客員教授、東京都立総合芸術高等学校講師などを歴任しています。さらに、師である松村禎三の業績を顕彰し、その遺志を受け継ぎ新たな音楽の地平を拓くことを目的として設立された会「アプサラス」の会長を務め、松村賞や演奏会を主催するなど、多方面で日本の音楽界に貢献しています。京都アルティ合奏団や東京フィルハーモニー交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢などを指揮することも含め、その活動は作曲家の枠に留まりません。

主な作品には、オペラ「双子の星」「信長」、管弦楽曲「Sinfonia Liturgica」「般若理趣交響曲」「シンフォニック・カルマ」、協奏曲、弦楽四重奏曲などの室内楽・器楽曲、そして笙、箏、能、琵琶などの伝統楽器を用いた作品群があります。

受賞歴としては、日本交響楽振興財団作曲賞入選（1980年）、世界仏教音楽祭コンクール第1位（1983年）、国際カール・マリア・フォン・ウェーバー室内楽コンクール第1位（1987年）、藤堂音楽賞（1988年）、芥川作曲賞（1991年）、オーケストラ・アンサンブル金沢特別賞（1992年）、京都新人賞（1993年）、岡崎功賞（2021年）などがあります。

高橋裕氏は、伝統と革新を融合させた独自の音楽言語を追求し続け、作曲、教育、文化活動を通じて、日本の現代音楽界において重要な役割を果たしています。夫人も作詞・作曲家・ピアニストの高橋晴美氏であり、音楽一家として活動しています。

もう一度検索