高濃度ビタミンC点滴療法

高濃度ビタミンC点滴療法とは、がんに対する効果を期待して、大量のビタミンCを静脈から点滴投与する治療法です。この療法は一部の医療機関で実施されていますが、その有効性については医学的なエビデンスが確立されておらず、標準治療としては認められていません。欧米を中心に多くの臨床試験が行われてきましたが、現時点では質の高い臨床試験に基づく十分な根拠は得られていません。

ビタミンCとがんの関係については、疫学研究などから、ビタミンCが豊富な野菜や果物の摂取が発がんリスクを低下させる可能性は示唆されています。しかし、経口摂取ではビタミンCの血中濃度が厳密に調整されるため、大量に摂っても濃度は大きく上昇しません。高濃度点滴は、経口摂取では得られない高血中濃度を達成することを目的としています。

高用量ビタミンC療法は、1970年代にノーベル賞受賞者である化学者ライナス・ポーリング博士が「がん患者の生存期間が延長した」と示唆する研究を発表し、注目を集めました。これに対し、アメリカのメイヨークリニックは、進行がん患者を対象とした比較試験を実施し、高用量ビタミンCの効果は認められないと結論付けました。ポーリング博士らの研究の追試や、メイヨークリニックによる他の試験でも、がんに対する高用量ビタミンCの単独での効果は確認されませんでした。

2000年代以降、高濃度ビタミンC点滴による効果を示唆する症例報告が再び現れ、臨床試験が実施されています。しかし、これまでの臨床試験をまとめた2021年のシステマティック・レビューでは、経口投与は悪性腫瘍患者に効果がないと結論付けられています。静脈内投与に関しても、既存の研究の対象や方法にばらつき（異質性）があるため、現時点では明確な結論は得られていません。総じて、質の高いランダム化比較試験によるエビデンスが不足していることが繰り返し指摘されています。

考えられる作用メカニズム

高濃度のビタミンCががん細胞に対して何らかの作用を及ぼす可能性のあるメカニズムとしては、以下のようなものが研究されています。

高濃度下でのビタミンCによる過酸化水素生成と、それによるがん細胞への直接的な傷害。
がん細胞の増殖に関わる特定の遺伝子発現への影響。
* 細胞内の不要な成分を分解・リサイクルするオートファジー経路の活性化。

これらのメカニズムが臨床的な治療効果にどの程度結びつくかは、さらなる検証が必要です。

安全性と併用療法

安全性については、一般的に重篤な副作用は少ないとされますが、腎機能に障害がある患者における腎不全の事例が報告されているため注意が必要です。抗がん剤治療に伴う吐き気などの副作用軽減の可能性も一部で示唆されています。単独療法としての有効性は確立されていませんが、既存の抗がん剤との併用による安全性や有効性を検証する臨床試験は複数報告されています。

日本における現状と課題

日本国内では、高濃度ビタミンC点滴療法は、一部の臨床試験として行われている場合を除き、多くが高額な自由診療として提供されています。しかし、客観的な医学的エビデンスが不足しているにも関わらず、効果があるかのように宣伝することに対し、多くの医療専門家から批判の声が上がっています。科学的根拠に基づかない療法を推奨することは、がん患者が適切な標準治療を受ける機会を奪い、治癒の可能性を妨げる非倫理的な行為であると指摘されています。過去の研究結果や日本における医師への規制状況を根拠に、「詐欺商法」であると強く批判する意見も存在します。現時点では、高濃度ビタミンC点滴療法は標準治療ではなく、その実施には慎重な判断が求められます。

もう一度検索