高瀬温泉

新潟県岩船郡関川村、清らかな流れを見せる荒川のほとりに位置する高瀬温泉は、「えちごせきかわ温泉郷」を構成する主要な温泉地の一つに数えられます。この温泉郷は、高瀬のほか、湯沢、雲母（きら）、鷹ノ巣、桂の関といった個性豊かな温泉地が集まって形成されており、古くからこの地域の湯治場として人々に親しまれてきました。中でも高瀬温泉は、温泉郷の中心的な存在としての役割を担っています。荒川右岸の河畔に広がる温泉街には、十数軒の温泉旅館をはじめ、多様な飲食店や土産物店などが軒を連ねており、温泉郷内で最も規模が大きく、賑わいを見せる中心的な温泉地となっています。荒川を挟んで対岸の左岸側には雲母温泉があり、かつてはこの地域全体を指して「雲母温泉」と呼んでいた時期もあったと伝えられています。

この温泉地の大きな魅力は、その豊富な湯量と優れた泉質にあります。高瀬温泉には複数の源泉が存在し、それぞれ異なる特性を持っています。代表的な源泉としては、1号井と2号井があります。1号井の泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉に分類され、これは湯治に古くから用いられる代表的な泉質の一つです。分類上は低張性中性高温泉とされ、源泉温度は65.9度と高い温度を保っています。一方、2号井も同じくナトリウム-塩化物・硫酸塩泉ですが、こちらは低張性弱アルカリ性高温泉であり、さらに高温の71.2度を誇ります。これらの泉質は、神経痛や筋肉痛、関節痛、冷え性、疲労回復などに効果があるとされており、古くから多くの湯治客に恵まれてきました。

高瀬温泉の歴史は大変古く、その起源は江戸時代にまで遡ることができます。1738年に編纂された薬学書「一本堂藥選」には既にこの地域の温泉が「雲母の湯」として記録されており、さらに1756年の地誌「越後名寄」でも「荒川ノ河原ニ在故洪水ノ時ニハ不能浴」と紹介されています。この記述は、荒川の河原に位置していたため、しばしば洪水の影響を受けて入浴が困難になることがあったという、当時の温泉地の様子を今に伝えています。村上藩の様々な記録からも、この地の温泉が湯治場として盛んに利用されていた様子がうかがえます。例えば、天明八年（1788年）には久保多町吉祥院の山伏が、寛政九年（1797年）には年寄の太兵衛が、文政二年（1817年）には妙法寺の者が、それぞれ雲母へ湯治に行ったという記録が残っています。特に、文政五年（1822年）には上町年寄の嘉兵衛が湯治のために20日間の暇を願い出ており、翌文政六年（1823年）にも大年寄の林善右衛門が湯治のために暇を願うなど、村上藩の武士や役人が長期にわたる湯治にこの地の湯を利用していたことが分かります。このように、かつては「雲母温泉」と呼ばれていたこの地が、文政六年（1823年）から明治三十五年（1902年）にかけての時期に、現在の「高瀬温泉」と呼ばれるようになったと伝えられています。

この名前の変遷には、一つの伝説が深く関わっています。それは、「一羽の鷹が傷ついた体を癒やすために温泉に浸かっているのを見つけ、この温泉が発見された」という「鷹の伝説」です。この伝説が、後の「高瀬」という地名の由来になったとされています。古くから温泉の温度についても記録があり、吉田という人物の記録では、この高瀬湯の温度が約65.6℃（温百五十度）であったと記されており、現在の源泉温度とも近い数値を示しています。

豊かな自然環境に恵まれた高瀬温泉ですが、時に荒川の自然の厳しさにも直面してきました。特に、1967年（昭和42年）8月に発生した羽越大水害では、荒川の氾濫により温泉街は甚大な被害を受け、壊滅的な状況となりました。しかし、地域住民や関係者の不屈の努力と全国からの支援により、温泉地は見事に復興を遂げ、再び活気を取り戻しました。近年においても、2022年8月の豪雨により再び床上浸水の被害を受けるなど、水害のリスクと向き合いながらも、地域の人々の懸命な努力によって歴史ある温泉文化が守り続けられています。

高瀬温泉へのアクセスは、鉄道を利用する場合、JR米坂線の越後下関駅が最寄り駅となります。高速バスを利用する場合も、「下関」バス停（新潟交通観光バス下関営業所前）が便利です。駅から温泉地までは、新潟交通観光バスの路線バスが運行していますが、運行は平日のみで本数が少ないため、時刻表の確認が必要です。また、駅および下関営業所からは、レンタサイクル「湯～チャリ」の利用も推奨されています。駅から徒歩約5分の自転車店や温泉街で借りることができ、乗り捨ても可能なため、温泉地周辺の散策に最適です。車を利用する場合、日本海東北自動車道の荒川胎内ICから国道113号を経由して約16キロメートル、所要時間は約20分で到着します。

古くから伝わる伝説と豊かな歴史、そして効能豊かな湯に恵まれた高瀬温泉は、幾多の困難を乗り越えながら、今もなお多くの人々を迎え入れる癒やしの地として発展を続けています。

もう一度検索