高田馬場の決闘

高田馬場の決闘とは

高田馬場の決闘は、元禄7年（1694年）に、江戸郊外の高田馬場（現在の東京都新宿区西早稲田）で起こった武士同士の決闘事件です。伊予西条藩の藩士、菅野六郎左衛門と村上庄左衛門の個人的な争いが発端となり、そこに剣豪として知られる中山安兵衛（後の堀部武庸）が加わったことで、その名が広く知られるようになりました。

この決闘は、講談や芝居で繰り返し語られ、様々な脚色が加えられてきましたが、ここでは、最も史実に近いとされる、菅野の代理として中山安兵衛が西条松平家に提出した始末書を基に、事件の詳細を解説します。

決闘に至るまでの経緯

事件の発端は、元禄7年2月7日に遡ります。伊予西条藩の同僚であった菅野六郎左衛門と村上庄左衛門は、年始の宴席での些細な口論が原因で仲たがいしました。一度は仲直りをしたものの、再び口論となり、ついには高田馬場での決闘を決意します。

決闘の準備段階で、菅野は自らの味方が少ないことに気づきます。一方、村上側は既に多くの人数を集めていました。そこで菅野は、同じ剣術道場の門下生であり、親しい間柄であった中山安兵衛に助けを求めました。

菅野は安兵衛に、「もし自分が討たれた時は、妻子を託し、仇を討って欲しい」と頼みます。しかし、安兵衛は仇討ちではなく、即座に菅野と共に戦うことを決意しました。「私の方が貴殿より手足も達者だから、私が敵を討ち果たします」と述べ、菅野を勇気づけました。

決闘当日

決闘当日、菅野、安兵衛、そして数名の従者は高田馬場に向かいました。安兵衛が周囲を見渡すと、村上庄左衛門が一人で現れました。しかし、それは罠であり、実際には村上の弟である中津川祐見と村上三郎右衛門が待ち伏せしていました。

挟み撃ちを警戒した菅野は、安兵衛らに守られながら村上庄左衛門に近づきました。両者が対峙し、言葉を交わすと、村上三郎右衛門が背後から斬りかかろうとしました。安兵衛はこれをいち早く察知し、三郎右衛門を斬り伏せました。

同時刻、菅野と村上庄左衛門は激しく斬り合っていました。菅野は眉間を切られますが、すぐに反撃し、村上の両手を斬り落としました。しかし、村上はそれでも攻撃を止めようとしませんでした。そこで、安兵衛が村上を斬り伏せ、さらに中津川祐見も倒しました。

この決闘で、安兵衛は少なくとも3人（村上庄左衛門、村上三郎右衛門、中津川祐見）を斬ったとされています。

決闘の場所

決闘が行われた高田馬場は、現在の新宿区西早稲田に位置しています。近くの水稲荷神社には、安兵衛の武勇を讃える石碑が建てられています。

決闘後の逸話

この決闘は、江戸で噂となり、安兵衛は「18人斬り」をしたという噂が広まりました。また、講談や芝居では、安兵衛が酔いから覚めて駆けつけたという逸話や、後に結婚する堀部きちとの運命的な出会いが描かれるようになりました。

学習院大学内にある「血洗いの池」も、安兵衛が刀を洗ったという逸話が語られていますが、これは後世の創作であるとされています。

忠臣蔵との関係

高田馬場の決闘で名を挙げた安兵衛は、後に赤穂藩士の堀部金丸の婿となり、赤穂浪士の一員として吉良邸討ち入りに参加することになります。この決闘は、忠臣蔵の物語においても重要なエピソードとして扱われています。