高登渉

髙登弘光：信州から現れた大相撲力士

1908年、長野県に生まれた髙登弘光（本名：吉川渉）。自転車競技大会でのアクシデントを逆転の発想で優勝に導いた逸話は、彼の生涯を象徴するかのようにドラマチックです。折れたペダルを担いで走り抜けたその姿は、後の大相撲での不屈の精神に通じるものがありました。

その才能を見抜いたのは、高砂親方（元大関・朝潮）でした。1927年、高砂部屋に入門し、大相撲の世界へ足を踏み入れます。1931年には十両、そして幕内へ昇進。順調な歩みを続けるかに思えましたが、運命の歯車は動き出します。

1932年、春秋園事件という相撲界を揺るがす出来事が発生。この騒動の中で、髙登は前頭4枚目から小結へ大抜擢されます。しかし、この場所は負け越し。その後、5月場所から成績を上げ始め、1933年1月場所にはついに関脇に昇進。7勝4敗の好成績を残し、5月場所では横綱・玉錦と優勝を争うまでになります。9勝2敗という素晴らしい成績で、大関昇進も目前と思われた矢先、試練が彼を襲います。

1934年、胃潰瘍により休場。その後は右膝の怪我にも悩まされ、大関への夢は断たれてしまいました。しかし、髙登の相撲人生はここで終わらなかったのです。

6尺を超える恵まれた体格と、長野県出身であることから、「信州の雷電」の再来と称賛されました。得意技は右四つからの寄り。全盛期には、玉錦、男女ノ川、武蔵山らと並び称されるほどの力士でした。

1939年、現役を引退。年寄・大山を襲名し、独立して大山部屋を興します。しかし、その後の東京大空襲で部屋は被災。さらに悲劇が彼を襲います。愛する妻子と弟子2人を失ったのです。

想像を絶する苦難を乗り越え、髙登は相撲界に復帰。大関・松登を育成するなど、後進の指導にも力を注ぎました。相撲解説者としても人気があり、独特の声は「飴玉を転がすような声」と評されました。

1961年には新しい部屋を建設し、移転。しかし翌年、1962年1月場所中、心臓麻痺で急逝。53歳という若さでその生涯を閉じました。彼の死後、大山部屋は弟子である松登が継承しました。

髙登弘光は、数々の困難を乗り越え、大相撲界に大きな足跡を残した力士でした。彼の生涯は、私たちに勇気と感動を与え続けてくれます。

主な成績

通算成績：174勝126敗28休 勝率.580
幕内成績：106勝94敗28休 勝率.530
現役在位：39場所
幕内在位：21場所
三役在位：8場所（関脇4場所、小結4場所）

改名歴

高登 渉（たかのぼり わたる）：1927年1月場所-1936年1月場所
高登 弘光（たかのぼり ひろみつ）：1935年5月場所-1937年5月場所
高登 猛（たかのぼり たけし）：1938年1月場所-1938年5月場所
高登 啓親（たかのぼり ひろちか）：1939年1月場所-1939年5月場所

年寄変遷

大山 渉（おおやま わたる）：1939年5月-1962年1月

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