高見ダム

高見ダム：北海道最大のロックフィルダムと日高地方の開発

北海道日高郡新ひだか町を流れる二級河川・静内川上流部に位置する高見ダムは、高さ120メートルを誇る北海道最大のロックフィルダムです。その壮大なスケールと、治水・発電という多目的機能を併せ持つ役割から、北海道、ひいては日本におけるダム工学の歴史において重要な位置を占めています。旧名は奥高見ダムでしたが、交通網の発達や他のダムとの名称の混同を避けるため、現在の名称に変更されました。

静内川とダム建設の背景

静内川は、日高地方を代表する河川で、かつては「染退川」と呼ばれていました。アイヌ語に由来する名称を持つこの川は、豊かな水量を誇る一方で、度重なる洪水被害をもたらす「暴れ川」としての側面も持ち合わせていました。戦後、急増する電力需要に応えるため、北海道電力は日高地方を流れる河川群に着目し、日高電源一貫開発計画を立案しました。その計画の中核を担うのが、高見ダムと高見発電所だったのです。

しかし、計画の進展は容易ではありませんでした。日高山脈の険しい地形、測量や調査の困難さ、そして脆弱な地質など、数々の困難が立ちはだかりました。加えて、開発予定地は当時、帝室御料林に指定されていたため、開発には制限がありました。計画開始当初は、獣道程度の交通手段しかなく、調査員の苦労は並々ならぬものだったと伝えられています。

多目的ダム建設への道のり

1950年代からの調査を経て、林道の整備や技術の進歩により、ダム建設に向けた準備が整いました。計画当初は発電を主目的としていましたが、1950年代後半から1960年代にかけて静内町で発生した大規模な洪水被害を受け、治水機能も求められるようになりました。北海道開発局による赤岩ダム計画の中止や新冠川ダム計画の頓挫を経て、静内川の治水対策として高見ダム建設が決定しました。

こうして、北海道と北海道電力の共同事業として「静内川総合開発事業」が始動し、1974年から高見ダムの建設工事が開始されました。しかし、工事は容易ではありませんでした。1970年代後半から1980年代前半にかけて、相次ぐ労働災害、落盤事故、雪崩など、多くの困難に見舞われました。事故原因の究明や安全対策の強化、そして静内神社での祈祷など、関係者の努力によって、1983年にダムと発電所の完成を迎えました。

高見ダムの規模と機能

高見ダムは、総貯水容量2億2900万立方メートル、湛水面積も広大で、地方自治体が管理する多目的ダムとしては日本最大規模を誇ります。その規模は、関東地方の大規模な人造湖にも匹敵するほどです。ダムの主要な目的は、洪水調節と水力発電です。毎秒1600立方メートルの計画高水流量を、ダムで調整することで下流への影響を軽減しています。

高見発電所

高見発電所は、高見ダムの貯水池を利用した自流混合型の揚水式水力発電所です。最大出力20万キロワットの発電能力を有し、静内川の水と支流である春別川からの導水水を活用しています。夏季や冬季の電力ピーク時には、静内ダムに貯水された水を高見湖へ揚水して発電を行うことで、安定的な電力供給に貢献しています。

周辺環境とアクセス

高見ダム周辺は、サラブレッドの産地として知られる新ひだか町に位置しています。また、襟裳岬など多くの観光地にも近く、春には「二十間道路桜並木」の桜が満開となり、多くの観光客が訪れます。公共交通機関や自動車でのアクセスも可能です。ただし、ダムへのアクセスには制限があり、関係者以外立入禁止となっています。

まとめ

高見ダムは、自然環境の厳しさや数々の困難を乗り越え、完成した大規模な多目的ダムです。その存在は、日高地方の開発と発展に大きく貢献しており、日本のダム工学史においても重要な位置を占める、まさに「北海道の誇り」と言えるでしょう。

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