高速度鋼

高速度鋼（ハイス）のすべて

高速度鋼（ハイス、high-speed steel）とは、金属材料の高速切削加工を可能にするために開発された特殊な工具[[鋼]]です。その名の通り、従来の鋼では不可能だった高速での加工を実現し、製造工程の効率化に大きく貢献しました。

高速度鋼の誕生と歴史

高速度鋼の起源は1868年にさかのぼります。イギリスの金属工学者ロバート・フォレスター・マシェットによるマシェット鋼が、その原型とされています。その後、1899年から1900年にかけて、フレデリック・テイラーとマンセル・ホワイトが、より優れた高速度鋼であるテイラー・ホワイト鋼を開発しました。この革新的な鋼は、特許を取得したものの、様々な議論を経て無効とされています。

米国では、1910年に米国国家規格協会（ANSI）が最初の高速度鋼合金を「T1」と分類し、クルシブル・スチール社が特許を取得しました。日本においては、1913年に安来鉄鋼合資会社（現・日立金属安来工場）の伊部喜作らが、坩堝製鋼法を用いて東洋で初めて高速度鋼の製造に成功しました。この技術は、日立金属の技術基盤となり、安来鋼の開発にも繋がっています。1919年には「高速度刃物鋼」として特許を取得し、その存在を明確にしました。

高速度鋼の製造と特性

高速度鋼は、クロム、タングステン、モリブデン、バナジウムといった合金元素を鋼に多量に添加することで、高温下でも硬さと耐軟化性を維持する特性を持たせています。製造工程では、まず合金元素を溶解し、鋳造、鍛造を経て、最終的に焼入れなどの熱処理を施し、研磨して所定の形状に仕上げます。

超硬合金と比較すると、耐摩耗性はやや劣りますが、靭性（粘り強さ）に優れています。粉末冶金法の登場以前は、金属材料のあらゆる切削加工に用いられていました。粉末冶金法の導入により、組織の微細化や合金化が進み、「焼結高速度鋼（粉末ハイス）」が開発され、より高性能な工具を実現しました。さらに、物理気相蒸着（PVD）法による窒化チタン（TiN）などの耐摩耗性被膜の形成技術も発展し、高速度鋼の性能は更に向上しています。

現在では、超硬合金では靭性が不足するような金属加工、特にドリル、エンドミル、金属用鋸刃などの工具材料として広く用いられています。コバルトを添加した「コバルトハイス」は、焼き戻し抵抗性と高温硬度が高く、高温になるステンレス[[鋼]]の穴あけ加工などに適しています。

日本産業規格（JIS）

日本産業規格（JIS）では、「JIS G4403」として13種類の高速度鋼が規定されています。これらは「SKH」という記号で識別され、SKH2、SKH10、SKH51、SKH55などが代表的な鋼種です。この記号はSteel、Kougu（工具）、High-speedの頭文字を取ったものです。

まとめ

高速度鋼は、その発明以来、金属加工技術の進歩に大きく貢献してきた重要な材料です。現在も、粉末冶金法や表面処理技術などの革新的な技術開発により、更なる性能向上と用途拡大が期待されています。

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