高遠石工

高遠石工とは

高遠石工（たかとおせっこう）は、信濃国高遠（現在の長野県伊那市高遠町）を拠点とした石工集団です。その歴史は中世に遡ると考えられていますが、具体的な発祥は不明な点が多く残されています。

歴史

高遠石工の由緒書には、1187年（文治3年）に源頼朝から石細工職人としての活動許可を得たという記述がありますが、これは伝説的なもので、実際の発祥は中世頃と推定されています。江戸時代には、高遠藩の財政難を背景に出稼ぎが奨励され、彼らは全国各地で活躍しました。活動範囲は青森県から山口県にまで及び、各地に石仏や道祖神などの石造物を残しました。

17世紀半ば頃からその存在が広く知られるようになり、18世紀には最盛期を迎えました。しかし、明治時代になると、その活動は衰退していきました。

江戸時代の活動

江戸時代、高遠石工は、その技術を活かして全国各地で石造物の制作に携わりました。彼らは、単なる職人としてだけでなく、芸術家のような情熱を持って仕事に取り組んだと言われています。高遠藩にとっては、石工の出稼ぎによる運上金が重要な収入源であり、藩によって保護・統制されていました。

明治以降

明治時代に入ると、社会の変化とともに高遠石工の活動は衰退しました。しかし、彼らが残した作品は、現在も各地で大切に保存されており、その技術と芸術性は高く評価されています。

主な石工

高遠石工の中には、優れた技術を持つ名工が数多く存在します。その中でも特に有名な人物を以下に紹介します。

守屋貞治（もりや さだじ）: 高遠石工の中でも稀代の名工と言われ、68年の生涯で336体もの石仏を制作しました。彼の作品は、長野県だけでなく、群馬県、東京都、神奈川県、山梨県、岐阜県、愛知県、三重県、兵庫県、山口県にも残されており、広範囲に活動していたことがわかります。特に「貞治仏」と呼ばれる作品は、その高い芸術性で知られています。
守屋孫兵衛（もりや まごべえ）: 貞治の父。
守屋貞七（もりや さだしち）: 貞治の祖父。
向山重左衛門（むかいやま じゅうざえもん）: 寛延から明和年間にかけて活躍した石工です。
久左衛門（きゅうざえもん）: 向山重左衛門の弟弟子です。
下平文左右門（しもだいら ぶんざえもん）: 明和から安永年間を中心に活動した石工です。息子の太左右門も石工として活動しました。
渋谷藤兵衛（しぶや とうべえ）: 守屋貞治の高弟で、師の貞治と共に数々の石造物を制作しました。
小笠原政平（おがさわら まさへい）: 東春近を中心に活動した石工で、「俺の石仏は銘がなくとも頬骨のふくらみを見ればそれとわかる」と言っていたという逸話が残っています。

現在の状況

現在、高遠石工の作品は、地元伊那谷周辺をはじめ、首都圏、東海・近畿地方、山口県など、日本各地に点在しています。特に、安曇野地方に多く見られる石像道祖神は、高遠石工によって制作されたものが多く、彼らの活動の広さを物語っています。また、伊那市高遠町の建福寺には、西国三十三所観世音をはじめとする数多くの石工作品が残されており、その技術の高さを間近に見ることができます。

まとめ

高遠石工は、中世から明治にかけて活躍した石工集団であり、その高い技術と芸術性は、現代においても高く評価されています。彼らが残した石造物は、日本の文化遺産として、これからも大切に保存されていくでしょう。

ギャラリー

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参考文献

笹本正治監修 長野県高遠町教育委員会 著『再発見!高遠石工』（2005年）ほおずき書籍 ISBN 978-4434057205
田中清文 著『高遠石工 石匠列伝 伊那谷に於ける高遠石工の実態を探る』（1998年）伊那谷石造文化財研究所
小山矩子 著『石匠守屋貞治の石仏を訪ねて』（2016年）文芸社 ISBN 978-4286169439

関連項目

高遠町
高遠藩

外部リンク

信州大学 高遠石工シンポジウム
東白川村アーカイブス『東白川村の廃仏毀釈』
高遠石工 - 伊那市ホームページ
高遠石工研究センター
「群馬県内における“高遠石工”についての資料を、所蔵資料の中から紹介してほしい。」（高崎市立中央図書館） - レファレンス協同データベース

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