鱗形屋孫兵衛

鱗形屋孫兵衛：江戸の出版文化を彩った地本問屋

鱗形屋孫兵衛（うろこがたや まごべえ、生没年不詳）は、江戸時代に江戸で活躍した地本問屋です。鶴鱗堂または鶴林堂と号し、山野氏を名乗っていました。彼は、江戸の出版文化において重要な役割を果たし、多岐にわたる出版物を手がけました。

開業と初期の活動

鱗形屋孫兵衛は、万治年間（1658年 - 1661年）に江戸の大伝馬町三丁目に店を構えました。開業当初から、噺本、仮名草子、菱川師宣の絵本、浄瑠璃本など、幅広いジャンルの出版物を取り扱いました。寛文年間（1661年 - 1673年）には、これらの出版を通じて、江戸の文化を大いに盛り上げました。

地本問屋仲間としての活躍

享保6年（1721年）に書物問屋仲間が結成されると、鱗形屋孫兵衛は地本問屋仲間の一員として名を連ね、江戸における有力な書肆としての地位を確立しました。特に、当初は万屋清兵衛が商っていた八文字屋本を、寛延年間（1748年 - 1751年）には独占的に刊行するようになりました。この時期には、黒本、赤本、吉原細見、さらには正月の宝船の版画など、幅広いジャンルの出版物を手がけました。

黄表紙出版の主導

安永4年（1775年）、鱗形屋孫兵衛は恋川春町作の『金々先生栄花夢』を刊行し、黄表紙の出版を主導しました。この作品は、当時の江戸で大きなブームとなり、黄表紙というジャンルを確立する上で重要な役割を果たしました。

晩年と衰退

しかし、江戸の出版界が急速に発展するにつれて、鱗形屋孫兵衛の家業は次第に衰退していきました。出版競争の激化や新たな出版社の台頭により、かつての勢いは失われ、没落していきました。

主な作品

鱗形屋孫兵衛は、多くの浮世絵も出版しました。以下に代表的な作品を挙げます。

鳥居清倍 『市村竹之丞のかなや金五郎と沢村宗十郎のしまだのかんざえもん』 細判2枚続 漆絵 元文2年5月市村座『今ハ昔俤曽我』に取材
2代目鳥居清倍 『坂田半五郎のれんしやうぜうと三条勘太良のそがの十良』 細判 漆絵 元文3年正月中村座『宝曽我女護の島台』に取材
鳥居清忠 『浮絵劇場図』 横大々判 紅絵 元文
石川豊信 『桜樹に短冊を結ぶ女』 長大判 丹絵 寛保延享ころ
石川豊信 『花下美人』 大々判 丹絵 寛延
石川豊信 『初世瀬川菊之丞文読み立姿』 巾広柱絵 紅絵 シカゴ美術館所蔵
鳥居清満 『市村亀蔵の五郎』 細判 紅摺絵 宝暦9年5月市村座『分身鏃五郎』に取材
鳥居清広　『中村富十郎の中橋おまん』　細判　紅摺絵　日本浮世絵博物館所蔵　宝暦3年
北尾重政 『二代目市川団十郎の畑六郎左衛門』 細判 紅摺絵 明和4年 日本浮世絵博物館所蔵
歌川豊春 『琴棋書画』 大倍判 錦絵揃物 安永初期ころ

これらの作品は、当時の役者絵や美人画の流行を反映しており、江戸の人々の生活や文化を知る上で貴重な資料となっています。

関連作品

近年では、鱗形屋孫兵衛をモデルとした人物が、2025年放送予定のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』に登場します。このドラマでは、片岡愛之助さんが鱗形屋孫兵衛を演じます。このドラマを通して、鱗形屋孫兵衛の生涯や江戸時代の出版文化に対する関心がさらに高まることが期待されます。

まとめ

鱗形屋孫兵衛は、江戸時代中期に活躍した地本問屋であり、多様な出版物を手がけることで江戸の文化発展に貢献しました。彼の出版活動は、当時の人々の娯楽や文化、風俗を今に伝える貴重な手がかりとなっています。その名は、日本の出版史において、記憶されるべき存在です。

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