鳥居強右衛門

鳥居強右衛門 (とりい すねえもん)

鳥居強右衛門（生年不詳 - 天正3年5月16日（1575年6月5日））は、戦国時代の日本の足軽であり、奥平家の家臣。名は勝商（かつあき）と伝えられています。

生涯

鳥居強右衛門の名が歴史に登場するのは、天正3年（1575年）の長篠の戦いです。それ以前の生涯については、詳しいことはほとんど分かっていません。数少ない資料によれば、三河国宝飯郡内（現在の愛知県豊川市市田町）で生まれたとされ、当初は奥平家の直臣ではなく、陪臣であったとも言われています。長篠の戦いに参戦した時の年齢は、数えで36歳であったと伝えられています。

当時の奥平氏は、今川氏、織田氏、松平氏（徳川氏）と主家を転々とする国衆でしたが、元亀年間には甲斐の武田氏の侵攻を受け、武田家の傘下に入っていました。しかし、武田信玄が元亀4年（1573年）4月に死去すると、奥平氏は再び松平氏（徳川氏）に寝返り、信玄の後を継いだ武田勝頼の怒りを買うことになります。

奥平家の当主であった奥平貞能の長男・貞昌（後の奥平信昌）は、三河国の東端に位置する長篠城を徳川家康から託され、約500の兵で守備していました。天正3年5月、長篠城は勝頼率いる1万5千の武田軍に包囲されます。5月8日の開戦から、11、12、13日にも攻撃を受けますが、周囲を谷川に囲まれた長篠城は、なんとか防衛を続けていました。しかし、13日に武田軍が放った火矢によって城の北側にあった兵糧庫が焼失。食糧を失った長篠城は、長期籠城が困難となり、落城寸前の状況に追い詰められました。そのため、貞昌は最後の手段として、家康のいる岡崎城へ使者を送り、援軍を要請することを決断します。一方、岡崎城の家康も武田軍の動きを察知しており、長篠での決戦に備えて同盟者の織田信長に援軍を要請していました。

しかし、武田の大軍に包囲されている状況下で、城を抜け出して岡崎城まで援軍を要請することは、不可能に近いと思われました。この困難な役目を自ら志願したのが、強右衛門でした。14日の夜陰に乗じて城の下水口から出発。川を潜ることで武田軍の目を欺き、包囲網を突破しました。翌15日の朝、長篠城からも見渡せる雁峰山から狼煙を上げ、脱出の成功を知らせました。そして、午後に岡崎城に辿り着き、援軍の派遣を要請しました。この時、信長の援軍3万が岡崎城に到着しており、織田・徳川連合軍3万8千は、翌日にも長篠へ向けて出発する手筈となっていました。この情報を得て喜んだ強右衛門は、一刻も早く味方に知らせるため、すぐに長篠城へ引き返します。16日の早朝、往路と同じ山で烽火を上げた後、さらに詳細を伝えるべく入城を試みましたが、城の近くの有海村で武田軍に見つかり捕らえられてしまいました。烽火が上がるたびに城内から歓声が上がるのを不審に思った武田軍が、警戒を強めていたのです。

強右衛門への取り調べによって、織田・徳川の援軍が長篠へ向かうことを知った勝頼は、援軍が到着する前に一刻も早く長篠城を落とす必要に迫られました。そこで勝頼は、強右衛門の命を助けるばかりか、武田家の家臣として厚遇することを条件に、援軍は来ないから諦めて城を明け渡すべきという偽の情報を城に伝えるよう、強右衛門に命じました。そうすれば城兵の士気が低下し、城はすぐに落城すると考えたのです。

強右衛門は勝頼の命令を表面的には承諾し、長篠城の西岸の見通しの良い場所へ連れて行かれました。しかし、死を覚悟していた強右衛門は、あと二、三日で援軍が来るからそれまで持ち堪えるようにと、城に向かって叫びました。これを聞いた勝頼は激怒し、その場で部下に命じて強右衛門を殺害しました。しかし、強右衛門の決死の報告によって「援軍間近」の情報を得た貞昌と長篠城の兵たちは、大いに士気を高め、援軍が到着するまでの二日間、武田軍の攻撃から城を守り抜くことに成功しました。援軍の総大将であった信長も、味方全員を救うために犠牲となった強右衛門の忠義に感銘を受け、立派な墓を建立させたと伝えられています。

強右衛門の忠義は後世にまで語り継がれ、彼の勇気と犠牲は、今もなお多くの人々に感銘を与えています。

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