鳥海永行

鳥海永行（1941年10月29日-2009年1月23日）は、日本のアニメーション界に多大な貢献をした監督、演出家、そして小説家です。神奈川県伊勢原市出身、中央大学法学部政治学科卒業という経歴を持ち、そのキャリアはタツノコプロから始まり、スタジオぴえろを経てフリーランスとして活躍しました。

演出家としての鳥海永行

鳥海永行の演出スタイルは、非常にシャープで完成度が高く、リアル志向と評されることもありました。しかし、彼は単なる写実主義者ではありませんでした。「アニメらしい動きの中に、写実的でリアルな動きの一カットを収めることで、非常に印象的な面白いものが生まれる」という独自の哲学を持っていました。その独特の演出は、後進のアニメーターたちに大きな影響を与え、特に押井守監督は鳥海を「師匠」と仰ぎ、彼の演出論や指導から多くのことを学んだと語っています。

鳥海は「演出家であろうがアニメーターであろうが、やりたい奴にやらせてはいかん。こっちがやらせたい奴にやらせろ」という持論を貫き、才能を見出した人間を積極的に登用しました。一方で、彼の厳しい指導は、周囲からは「怖い人」と評されることもありました。しかし、それは才能を最大限に引き出すための厳しさであり、弟子である押井守を始めとする多くのアニメーターたちが、彼の指導から多くのことを学びました。

タツノコプロ時代には、『科学忍者隊ガッチャマン』、『破裏拳ポリマー』、『宇宙の騎士テッカマン』、『ゴワッパー5 ゴーダム』といった人気作品で総監督を務め、そのリアル志向とハードな描写は当時のアニメ界に大きな衝撃を与えました。『科学忍者隊ガッチャマン』は、タツノコプロを代表する作品となり、後のアニメブームの先駆けとなりました。また、笹川ひろしと共にタツノコプロ全盛期を支えた二枚看板の一人として、ハードなリアル作品を担当していました。

タツノコプロ退社後は、フリーランスとして活動の幅を広げ、『ニルスのふしぎな旅』でチーフディレクターを務め、日仏合作アニメ『太陽の子エステバン』では総監督を務めました。さらに、世界初のOVA作品である『ダロス』や、日本アニメ大賞を受賞した『エリア88』などのOVA作品も手がけました。

晩年には、幼児向けアニメ『しましまとらのしまじろう』の総監督を務め、幼年層に向けた作品作りにも挑戦しました。この作品では、「回想シーンは作らず、現在進行形での物語を作る」「受けは狙わない」「淡々とした雰囲気でもいい」「色彩の明るさ・動きが少なくても、飽きの無い切り返し、リズムを大事にする」という独自のポリシーで制作に臨みました。

小説家としての鳥海永行

鳥海永行は、アニメーション監督としての活動と並行して、小説家としても活躍しました。歴史を題材とした伝奇小説を多く執筆し、『球形のフィグリド』シリーズは代表作の一つです。中世の御伽草子や近世の読本などの既存の物語に史実を組み合わせ、独自の世界観を構築する手法を得意としていました。作品には、当時の社会常識や変動の中で翻弄される人物の悲劇が描かれることが多く、歴史への深い造詣と独自の視点が感じられます。

鳥海永行の生涯と遺産

2009年1月23日、心不全のため67歳で逝去しました。しかし、彼の作品は今もなお、多くのアニメファンに愛され続けています。2019年には東京アニメアワードのアニメ功労部門で顕彰され、その功績が改めて称えられました。鳥海永行は、アニメーション監督、演出家、小説家として、多様な才能を発揮し、日本のアニメーション史に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。彼の作品は、これからも多くの人々に感動と興奮を与え続けることでしょう。

もう一度検索