覚猷

鳥羽僧正覚猷：仏教界の重鎮とユーモラスな絵画の巨匠

平安時代後期、天台宗の僧侶として、そして比類なき絵師として名を馳せた覚猷(かくゆう)。鳥羽上皇に深く帰依され、鳥羽僧正と呼ばれた彼は、日本の仏教史に大きな足跡を残しただけでなく、ユーモアと風刺に満ちた独自の画風で、後の漫画表現の先駆けとも評される存在です。

華麗なる経歴と仏教界での活躍

1053年、源隆国の第九子として誕生した覚猷は、幼少期に出家。園城寺で天台宗と密教の教えを修めながら、並外れた絵画の才能を開花させました。園城寺法輪院に長く住し、密教図像の制作や後進の育成に尽力する一方、研鑽を積み重ね、卓越した画技を身につけていきました。

その才能と功績は広く認められ、四天王寺別当、法成寺別当、園城寺長吏など、数々の名刹の要職を歴任。1132年には僧正に、1134年には大僧正に昇進するなど、仏教界における地位を着実に築き上げていきました。1138年には天台[[座主]]の座に就きますが、わずか3日で辞任。鳥羽上皇の厚い信頼を得て、鳥羽離宮の証金剛院に移り、同離宮の護持僧として余生を過ごしました。この頃から、鳥羽僧正と呼ばれるようになりました。

1140年、およそ90歳で生涯を閉じました。

ユーモアと風刺に満ちた画風

覚猷の絵画は、独特のユーモアと風刺精神に溢れており、「戯画」あるいは「嗚呼絵」と呼ばれています。軽妙洒脱なタッチで描かれた作品群は、一見単純な笑いを誘うものですが、その奥には、当時の社会や仏教界に対する鋭い批判精神が潜んでいると解釈されています。

『宇治拾遺物語』や『古今著聞集』には、いたずら好きで無邪気な彼の逸話が数多く残されています。『古今著聞集』に収録されている、弟子との絵画論争のエピソードは、彼のユーモラスな人となり、そして絵画に対する真剣な姿勢を垣間見せてくれます。また、『古事談』に記されている遺産相続に関する遺言の逸話は、当時の権力構造や僧侶の世俗的な側面への痛烈な風刺とも解釈され、その風刺精神が、彼を取り巻く社会情勢と密接に結びついていたことを示唆しています。

国宝『鳥獣人物戯画』（鳥獣戯画）、『放屁合戦』、『陽物くらべ』などは、覚猷の作品と伝えられていますが、美術史学上、断定的な証拠はありません。しかし、これらの作品に共通するユーモラスで風刺的な作風は、覚猷の画風と多くの共通点を見出し、彼の創作の可能性を示唆しています。

覚猷と現代への影響

覚猷の絵画は、そのユーモラスな表現と風刺性から、現代においても高く評価されています。彼の作品は、単なる絵画を超え、当時の社会への鋭い洞察と、普遍的な人間の感情を表現した、時代を超えた芸術作品として、人々の心を捉え続けています。また、後の漫画表現にも多大な影響を与えたと考えられており、漫画の始祖とも言われる所以です。 覚猷の生涯と作品は、歴史、宗教、そして芸術の複雑な絡み合いを理解する上で、貴重な手がかりを与えてくれます。

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