鳥追い

鳥追いとは

「鳥追い」は、日本の伝統的な行事や芸能の一つで、主に小正月（旧暦の1月14日から15日にかけて）の時期に行われます。この言葉は、稲作など農作物を食い荒らす鳥類を追い払い、豊作を祈願する農村行事を指す場合と、新年を祝う歌などを歌いながら家々の門口に立ち、金品を受ける門付芸人を指す場合があります。

農村における鳥追い行事

農村で行われる鳥追いは、主に東日本の各地で受け継がれてきました。その最大の目的は、田畑に被害をもたらす鳥、特にスズメなどの食害から大切な作物を守り、一年間の豊穣を願うことにあります。この行事の中心となるのは多くの場合、地域の子どもたちです。

行事の具体的な方法は地域によって多様です。

小屋を燃やす: 正月に飾った注連縄や木、藁などを集めて小さな小屋を作り、小正月の夜にこれを燃やすという方法があります。これは火の力によって鳥を追い払う呪術的な意味合いを持つと考えられています。
歌を歌いながら練り歩く: 子どもたちが地域の中を歌を歌いながら練り歩いたり、村の境界線まで行ったりする方法も一般的です。「鳥追い歌」と呼ばれる独特の歌を歌い、鳥を追い払う願いを込めます。

地域ごとの特色も見られます。

新潟県上越市: ここでは、隣接する集落同士が鳥追い歌を歌い合うという俗信があります。隣の集落よりも先に歌い始めなければ、害鳥が全て自分の集落に集まってしまうと信じられていました。また、鳥追いに出かける際は賑やかに騒いで行きますが、帰りは静かに戻ってこないと、追い払ったはずの鳥が舞い戻ってくるとされています。
福島県: 福島県の一部地域では、子どもたちが鐘や拍子木などを鳴らしながら村の外れまで向かい、そこで待っていた隣の集落の子どもたちと雪合戦や石合戦を行うという形で鳥追いが行われます。これは、境界を越えてくる鳥を追い払うことを象徴しているとも解釈できます。

これらの行事は、単に鳥を追い払うだけでなく、地域の子どもたちの育成や集落内の結束を強める役割も果たしていました。

門付芸としての鳥追い

鳥追いは、新春を祝う門付芸の一種としても行われました。これは、各地を旅する芸人や物乞いなどが、正月に家々を訪ねて鳥追い歌などを歌い、縁起を担いでお金や食料を得るというものです。

阿波踊りとの関係: 現在、徳島県の有名な祭りである阿波踊りの女性たちの華やかな扮装は、この門付芸としての鳥追い女の衣装や風俗がもとになっていると言われています。
京都の例: 京都など都市部では、物乞いなどが家々の門口で扇などを叩きながら、祝い歌を歌って金銭を乞うという形で行われていた記録があります。

農村の行事が五穀豊穣を願う実利的な意味合いが強いのに対し、門付芸は新年の祝いや祝福を伝えるという側面が強調されます。

鳥追いに関する民話・伝説

鳥追いは、各地の民話や伝説にも登場します。例えば、静岡県浜松市寺島町（現在の寺島八幡地）には、次のような伝説が伝わっています。

江戸時代の享保3年（1718年）、秋の収穫期に大量のスズメが飛来して稲を荒らし、農民たちは大変困っていました。そこで、村の人々が近くにあったお地蔵様に被害が収まるよう必死に願ったところ、翌朝、田んぼからスズメが一羽残らずいなくなっていたそうです。そして不思議なことに、お地蔵様の足には泥がべったりとついていました。このことから、お地蔵様が夜通し歩き回ってスズメを追い払ってくれたのだと信じられ、以来、このお地蔵様は「鳥追地蔵」と呼ばれるようになり、村人たちによって大切に祀られるようになったということです。

このように、鳥追いは農作物の守護、新年の祝福、そして人々の信仰と結びついた多様な文化として、日本の各地で発展し、受け継がれてきました。

関連項目

左義長（どんど焼き）
粥占
食害
害鳥
鳥威し
鳥追お松

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