鳳来寺山のブッポウソウ

「鳳来寺山のブッポウソウ」は、日本放送協会（NHK）の音楽番組『みんなのうた』において、2007年6月から7月にかけて放送された楽曲です。この楽曲は、世界的に知られるシンセサイザー奏者である冨田勲が、作詞、作曲、編曲の全てを手掛けています。歌唱はNHK東京児童合唱団が担当し、映像はCGアニメーション作家の大井文雄によって制作されました。

楽曲の創作背景には、冨田勲自身の少年時代の記憶が深く関わっています。彼は、父親の実家が近かった愛知県の鳳来寺山で過ごした幼少期に、当時「幻の鳥」として神秘視されていた「ブッポウソウ」の鳴き声に耳を傾けた経験があります。しかし、この声は後に、フクロウの仲間であるコノハズクのものであることが科学的に明らかになります。楽曲は、かつてブッポウソウの声として親しまれたコノハズクと、その声に魅せられた少年時代の冨田勲、そして現在の鳳来寺山を取り巻く状況を重ね合わせる形で描かれています。

現代においては、「声のブッポウソウ」として知られた鳴き声の主が、実際に目で確認される「姿のブッポウソウ」（こちらのブッポウソウも実在する鳥ですが、鳴き声は異なります）ではなく、コノハズクであったことが広く認識されるようになりました。皮肉なことに、この声の正体が解明されるきっかけとなった場所の一つである鳳来寺山では、現在ではそのコノハズクの声を聞くことが稀になってしまったと言われています。楽曲は、こうした長年の謎とその解明、そして現在の自然の状況変化に対する、冨田勲の複雑な思いが込められていると言えるでしょう。

映像を担当した大井文雄は、1970年代から『みんなのうた』の映像制作に携わっており、本作が彼にとって28回目の参加となりました。アニメーションはCGで制作され、楽曲の舞台である奥三河地方の雄大で美しい山々や自然風景が、幻想的なタッチで表現されています。

楽曲の内容は、物語形式で展開されます。中心となるのは、兄妹らしき少年と少女、そしてコノハズクとの間の交流です。歌の中では、遠くの山へ飛び去ってしまったコノハズクに対し、子供たちが優しく「帰ってきてほしい」と語りかけます。これに対し、コノハズクも何らかの応答を返すようなやり取りが、二部合唱によって巧みに表現されています。歌が進むにつれて、コノハズクが飛び去ってしまった理由が示唆されます。それは、自身の鳴き声が本来のブッポウソウのものと間違われていたことに、コノハズク自身が不満を感じていたからであるかのようです。物語には、本来のブッポウソウも登場し、コノハズクに対して鳳来寺山へ戻るように促します。楽曲のクライマックスでは、コノハズクが夜の闇の中を翼を広げて飛び立つ姿が描かれます。これは、鳳来寺山への帰還を示唆すると同時に、神秘的な鳥の姿を印象づけます。

この楽曲に込められた「コノハズクに鳳来寺山へ帰ってきてほしい」という願いは、作中に登場する子供たちだけの思いではありません。それは、少年時代にその声に魅せられ、長年にわたりその謎と向き合ってきた作者・冨田勲自身の、故郷の自然とそこに棲む生き物への深い愛情と切なる願いでもあるのです。楽曲全体を通して、自然への敬意、かつての思い出への郷愁、そして現代の自然環境へのメッセージが感じられます。

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