鵲院関の戦い

鵲院関の戦い（黄山江の戦い）

文禄元年（1592年）4月17日、朝鮮侵攻（文禄の役）の初期に、現在の韓国密陽市の南東に位置する洛東江沿いの隘路である鵲院関（チャグォングァン）で発生した日本軍と朝鮮軍の戦闘です。この戦いは、朝鮮軍が日本軍を野戦で初めて迎撃しようとした試みでしたが、その進撃を阻むことはできませんでした。

背景

文禄元年4月12日、釜山浦に上陸した日本軍一番隊（小西行長、宗義智、松浦鎮信ら）は、翌13日に釜山城を陥落させ、15日までに東萊城をはじめとする周辺の城や水営を短期間で制圧し、迅速に漢城（現在のソウル）への進撃を開始しました。

日本軍一番隊の先導を務めていた宗義智らは、15日の日没後に梁山に到達しました。市中を偵察中に朝鮮兵と遭遇して鉄砲を発砲した際、梁山城内に残っていた兵士たちは、東萊城の戦いで郡守の趙英珪が戦死しており指揮官が不在であった上、闇夜に響く銃声に驚愕し、敵襲と誤認して城を放棄して逃亡してしまいました。翌朝、16日早くに小西行長の隊と宗義智の隊の先発隊が無人となった梁山城を占領しました。城内には前日の食事や酒が手つかずで残されており、強行軍で疲弊していた日本軍将兵は、それらを得て休息することができました。

一方、朝鮮軍は、有事の際に各道の軍兵が主要都市に集結するという「制勝方略制」に基づいて行動しようとしていましたが、日本軍の想定外の速い進撃により、集結は遅れ、各地で混乱が生じていました。密陽府使の朴晋は、手勢500名を率いて東萊救援に向かいましたが、途中の蘇山駅で日本軍と交戦し敗北、密陽へ引き返していました。また、慶尚道巡察使の金睟も、晋州から東萊へ向かう途中でその陥落を知り、さらに北の大邱へと転進していました。

密陽の南には洛東江が流れており、雲門嶺の山脈が交差する地点に鵲院関がありました。ここは断崖に沿った細道が続く天然の要害であり、古くから関所が置かれた交通の要衝です。朴晋は、この天険の隘路に兵を配して日本軍の進撃を食い止めようと試みました。

概要

4月17日、梁山から西へ進撃を再開した日本軍一番隊は、午後に鵲院関に接近しました。斥候部隊からの報告により、約3,000の朝鮮軍が黄山江とも呼ばれる洛東江沿いの隘路を塞いで布陣していることを把握すると、一番隊を率いる小西行長と松浦鎮信は、正面突破ではなく進路を山手に変更しました。彼らは、隘路に布陣する朝鮮軍を迂回してその背後または側面に回り込むため、敵を見下ろせる高地である黄山に登りました。

突然、予期せぬ方向、すなわち高所から攻撃を受けた朝鮮軍は狼狽しました。待ち伏せするはずが、逆に奇襲を受けた形となったのです。すでに有利な高所に陣取った日本軍は、小西隊の八代衆を一番隊、松浦隊の平戸衆を二番隊として、鉄砲による交互の一斉射撃を開始しました。新緑の樹木の中で白装束の朝鮮兵は目立ちやすい目標となり、朝鮮軍の部隊は混乱し、先を争って逃げ始めました。日本軍は山を駆け下りてこれを追撃し、300人余りの首級を得ました。この戦いで、朝鮮軍の軍官である李大樹や金孝友らが戦死しました。

部隊が壊滅した朴晋は、鵲院関を放棄して密陽へ退却しましたが、その夜には城内の兵器庫に火を放ち、密陽城も捨てて山中へと逃げ去りました。

翌18日の午後、日本軍は密陽城に入城しました。この時、城の楼観門は焼失を免れて姿をとどめていました。19日には、日本軍はさらに北の大邱に向けて進撃を続けました。

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