鷲尾隆聚

鷲尾隆聚：峻厳な生き様を貫いた明治の公家

鷲尾隆聚（わしのお たかつむ、1843年1月25日-1912年3月4日）は、激動の幕末から明治時代を駆け抜けた公家です。右近衛中将鷲尾隆賢の次男として京都に生まれ、幼少期から類まれな才能と志を示しました。彼は勤王の志士として知られ、倒幕運動に積極的に参加。慶応3年（1868年）、高野山で挙兵し、紀州藩を恭順させるなど、歴史の大きな転換点に重要な役割を果たしました。

戊辰戦争では奥州追討総督・陸軍少将として活躍、幾多の戦場を転戦し、明治維新を迎えました。戦乱の時代を生き抜いた経験は、彼の生き方に深く刻まれたことでしょう。

武芸にも秀でており、剣術をこよなく愛し、自邸に「明鏡館」という道場を開設。門弟を指導し、剣術の普及にも貢献しました。明治16年（1883年）には宮内省済寧館御用掛に就任、その後、明治17年（1884年）には剣槍柔術永続社を山岡鉄舟とともに設立し、社長に就任しました。しかし、彼は理財に疎く、経営は難航。やがて負債を抱え、会社は解散という憂き目に遭います。

隆聚は、政治への関与を固辞したことで知られています。東久世通禧から貴族院議員への就任を勧められた際も、「政治に通ぜざる者が、歳費を得るため、貴族院に入ろうとする者があれば、自分はその面に唾しよう。自分はたとえ餓死しようとも、かくの如き陋態をまなばず」と断固拒否。このエピソードは、彼の清廉潔白な人となり、そして強い信念を示す逸話として、現在にまで伝えられています。

官職としては、五條県知事、若松県知事、愛知県令、元老院議官などを歴任。公家としての職務にも忠実に従事しました。栄典としては、伯爵、従三位、勲二等瑞宝章、正二位などを受賞しています。

晩年はどのような日々を送ったのでしょうか。記録は少ないですが、彼の生き様から、静かに余生を過ごしたと想像できます。剣術の腕を磨き、弟子たちを指導し、静かに時を過ごしたのかもしれません。

鷲尾隆聚は、華やかな公家としての地位だけでなく、倒幕運動への参加、戊辰戦争での活躍、剣術への情熱、そして政治への潔癖な態度など、多様な側面を持つ人物でした。彼の生涯は、激動の時代を生きた一人の公家の生き様を伝える貴重な記録であり、現代社会においても学ぶべき点が多いと言えるでしょう。

家族関係

鷲尾隆聚の家族関係も、彼の生涯を知る上で重要な要素です。先妻は平野長発の長女・万寿子、後妻は栗田三郎治の娘・仲。多くの子供にも恵まれ、長男・隆誠、次男・隆順、三男・隆緝、四男・春雄、十男・隆信、四女・房（三室戸和光の妻）、養女・花（平野長裕の娘、三河産治の妻）など、多くの家族に囲まれた日々を送ったことがわかります。

参考文献

・戸部新十郎『明治剣客伝 日本剣豪譚』、光文社

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