鹿瀬ダム

鹿瀬ダム：阿賀野川を彩る電源開発の歴史と景観

鹿瀬ダムは、新潟県東蒲原郡阿賀町、阿賀野川本川の中流に位置するダムです。地元では「角神ダム」とも呼ばれ、東北電力によって管理・運用されている発電専用ダムです。重力式コンクリートダムとして、高さ32.6mの堤体を誇り、その歴史的価値から土木学会により日本の近代土木遺産2800選に選定されています。

阿賀野川水系の電源開発

阿賀野川水系は、豊富な水量と急流という特性から、明治時代より水力発電の適地として開発が進められてきました。当初は猪苗代湖を中心とした発電が行われていましたが、電力事業の競争激化に伴い、ダム式発電所の建設が全国的に増加。阿賀野川水系でも本格的なダム式発電による水力発電が計画されるようになりました。

当時、阿賀野川中流部の電力開発を手掛けていた東信電気株式会社は、阿賀野川ライン付近を開発地点としてダム建設を計画しました。阿賀野川は川幅が広く水量が豊富であるため、ダム建設には困難が予想されましたが、大同電力が木曽川に建設した大井ダムを参考に、「半川締切工法」と呼ばれる工法が採用されました。これは川の流れを左右どちらかに偏らせ、流れが無くなった地点からダム本体を建設していく工法です。

鹿瀬ダムは、日本で二番目にこの「半川締切工法」で建設されたダムであり、大河川を締め切って建設された本格的なダムでした。1928年（昭和3年）に完成し、阿賀野川水系で最初に建設されたコンクリートダムとなりました。

発電と水俣病の影

鹿瀬ダムは水力発電を目的として建設され、ダム左岸に建設された鹿瀬発電所は、1928年12月1日に運転を開始しました。認可出力49,500kWを発電し、当時としては大規模な発電所でした。国力増強のため、阿賀野川流域の工業地域へ電力を供給することを目的としており、直下流にある昭和電工鹿瀬工場などに電力を供給していました。

しかし、この鹿瀬工場は石灰石から化学肥料を合成する過程で、アセトアルデヒド合成工程において排出されたメチル水銀が阿賀野川を汚染し、新潟水俣病を誘発するという悲劇を引き起こしました。

阿賀野川のダム群

鹿瀬ダム完成後も阿賀野川の電源開発は進み、上流には豊実ダムが建設されました。戦時中には電力管理法によって日本発送電が設立され、阿賀野川と支流の只見川に20ヶ所のダム・水力発電所を建設する計画が立てられました。戦後、東北電力がこれらの事業を継承し、上野尻ダム、揚川ダムが建設され、阿賀野川本川のダム式発電所建設計画は一応の完結を見ました。

1973年のオイルショックを機に、水力発電が再び見直され、鹿瀬発電所を含む阿賀野川の発電所は再開発され、出力が増強されました。

鹿瀬ダム調整池と周辺の観光

鹿瀬ダムによってできた人造湖は「鹿瀬ダム調整池」と呼ばれ、阿賀野川ラインを形成しています。両岸が険阻な峡谷を形成し、豊富な水量はライン川を彷彿とさせる景観を作り出しています。奥阿賀遊覧船が就航しており、鹿瀬ダムより上流の阿賀野川ラインを周遊することができます。

ダム下流正面には展望台があり、ダムと発電所を一望できます。湖畔には角神温泉があり、周辺には温泉郷が形成されています。夏は角神湖畔青少年旅行村でアウトドアを、冬には角神スキー場でスキーを楽しむことができます。また、麒麟山付近にはユキツバキの群生地である「雪椿園」もあります。

鹿瀬ダムへのアクセスは、磐越自動車道・津川インターチェンジから国道459号を北上するか、JR磐越西線・鹿瀬駅から徒歩約30分です。

鹿瀬ダムは、電源開発の歴史と美しい自然が織りなす魅力的なスポットです。訪れる際には、ダムの壮大な景観だけでなく、周辺の観光スポットも巡ってみてください。

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