黄金餅
古典落語の演目である「黄金餅（こがねもち）」は、主に東京の寄席でよく披露されています。
概要
この噺は、並外れてけちな僧侶の遺産を巡り、その財産を我が物にしようと画策する主人公の物語です。登場人物たちが社会的なタブーや倫理、道徳に反する行動をとる場面が複数出てきますが、聴衆に不快感を与えず、むしろ物語に引き込ませるためには、演者に非常に高い表現力やキャラクター作りが求められるとされています。
演目名の由来とされるのは、かつて寺社の祭礼などで縁起物として売られていた粟餅の「黄金餅」です。これは餅の色が黄色い（黄金色）ことにちなむもので、落語の内容とは直接的な関連はありません。
あらすじ
（以下は五代目古今亭志ん生による口演などに準じた一般的な筋立てです。）
寺を持たず、托鉢で日々を凌いでいる僧侶の西念（さいねん）は、下谷山崎町の長屋で貧しい暮らしをしていました。ある時、西念は重い風邪をひいて寝込んでしまいます。隣の部屋に住む金山寺味噌の行商人、金兵衛（きんべえ）が心配して看病に訪れます。金兵衛が何か食べたいものを尋ねると、西念は意外にも大量のあんころ餅を所望します。金兵衛は持ち合わせの少ない中から金を出し、たくさんのあんころ餅を買って西念の部屋へ届けます。しかし西念は「人がいる前で物を食べるのは苦手だ」と金兵衛を部屋から追い出してしまいます。
不審に思った金兵衛は、自分の部屋に戻り、壁の小さな穴から西念の様子を覗き見ます。一人になった西念は、あんころ餅を開いて餡と餅を分け、腹に巻いていた胴巻から取り出した、山のような二分金や一分銀を、その餅で一つずつ包み、なんとそのまま丸呑みし始めたのです。すべての金銀入りの餅を飲み終えた西念は、苦しげに呻き声を上げます。これに驚いた金兵衛は西念の部屋に飛び込み、餅を吐き出すよう勧めますが、西念は頑として口を開かず、そのまま息を引き取ってしまいます。
突然の出来事に戸惑う金兵衛でしたが、やがて西念の蓄えた金を手に入れようと決心し、策を巡らせます。金兵衛は大家のもとへ行き、西念の死を報告し、さらに身寄りのない西念の家族代わりとなり、自身の菩提寺である麻布絶口釜無村（あざぶぜっこうかまなしむら）の木蓮寺（もくれんじ）で丁重に弔いたいと申し出ます。（当時の制度として、遺体を火葬するには菩提寺から「切手」という証明書が必要だったため、この申し出には筋が通っていました）。長屋の住人たちが集められると、金兵衛は皆の仕事に差し支えないよう、その夜のうちに寺へ遺体を運ぶことを提案し、皆の同意を得ます。西念の遺体を早桶の代わりに樽に入れ、荷車で木蓮寺や火葬場へ運ぶための人選が行われます。
ここで噺家は、下谷山崎町から木蓮寺までの道のりを、地名を連ねつつ情景描写を交えながら語る「地語り」という長いパートを演じることがあります。
木蓮寺に到着した金兵衛が山門を叩くと、現れたのは泥酔した和尚でした。弔いの費用として和尚が言い値の天保6枚（600文）を要求するのを値切ろうとしますが聞き入れられず、金兵衛は渋々承知します。しかし和尚は袈裟も払子も質に入れてしまったと言います。そこで長屋の者たちは風呂敷を和尚に着せて即席の法衣を作り、ハタキを持たせて払子代わりにし、茶碗を箸で叩いてリンの代わりにさせ、なんとか経を読んでもらいますが、その経文は非常に怪しく滑稽なものです。この混乱に乗じ、金兵衛は本堂の台所からこっそりと鯵切包丁を盗み出します。
長屋の者たちを帰らせ、一人で桐ヶ谷（きりがや）の火葬場に着いた金兵衛は、火葬場の作業員である隠亡（おんぼう）に、翌朝でないと火葬できないと言われるのを無理に脅しつけ、炉に火をつけさせます。さらに、遺体の腹の部分だけは完全に焼かずに生焼けにするよう異様な注文を付けます。
金兵衛は新橋で時間を潰し、夜が明ける頃に再び火葬場へ向かいます。焼骨を拾おうとする隠亡を追い払い、包丁で遺体の腹のあたりを切り裂いて探ります。すると、目論見通り大量の金銀が出てきたため、金兵衛は狂喜乱舞します。金兵衛は戸惑う隠亡と残された骨を尻目に、そのままその場を立ち去ります。
金兵衛はこの金銭を元手に、目黒で餅店を開業します。彼の店は商売が大いに繁盛し、「黄金餅」と名付けられたその店の餅は、江戸の名物として広く知られるようになった、という結末で噺は締めくくられます。
バリエーション
演じ方によっては、金兵衛と火葬場の隠亡が以前からの知り合いである、とするパターンもあります。また、三遊亭円朝作とされていますが、名古屋の地誌に似た話があるという記事を基に、登龍亭獅篭によって尾張落語として創作された「新・黄金餅」も存在します。
主な演者
物故者
五代目 古今亭志ん生
七代目 立川談志
現役
春風亭一朝
古今亭志ん彌
三代目 古今亭圓菊
関連項目
酉の市：寺社の年中行事で、縁起物として黄金餅が売られることがあります。
概要
この噺は、並外れてけちな僧侶の遺産を巡り、その財産を我が物にしようと画策する主人公の物語です。登場人物たちが社会的なタブーや倫理、道徳に反する行動をとる場面が複数出てきますが、聴衆に不快感を与えず、むしろ物語に引き込ませるためには、演者に非常に高い表現力やキャラクター作りが求められるとされています。
演目名の由来とされるのは、かつて寺社の祭礼などで縁起物として売られていた粟餅の「黄金餅」です。これは餅の色が黄色い（黄金色）ことにちなむもので、落語の内容とは直接的な関連はありません。
あらすじ
（以下は五代目古今亭志ん生による口演などに準じた一般的な筋立てです。）
寺を持たず、托鉢で日々を凌いでいる僧侶の西念（さいねん）は、下谷山崎町の長屋で貧しい暮らしをしていました。ある時、西念は重い風邪をひいて寝込んでしまいます。隣の部屋に住む金山寺味噌の行商人、金兵衛（きんべえ）が心配して看病に訪れます。金兵衛が何か食べたいものを尋ねると、西念は意外にも大量のあんころ餅を所望します。金兵衛は持ち合わせの少ない中から金を出し、たくさんのあんころ餅を買って西念の部屋へ届けます。しかし西念は「人がいる前で物を食べるのは苦手だ」と金兵衛を部屋から追い出してしまいます。
不審に思った金兵衛は、自分の部屋に戻り、壁の小さな穴から西念の様子を覗き見ます。一人になった西念は、あんころ餅を開いて餡と餅を分け、腹に巻いていた胴巻から取り出した、山のような二分金や一分銀を、その餅で一つずつ包み、なんとそのまま丸呑みし始めたのです。すべての金銀入りの餅を飲み終えた西念は、苦しげに呻き声を上げます。これに驚いた金兵衛は西念の部屋に飛び込み、餅を吐き出すよう勧めますが、西念は頑として口を開かず、そのまま息を引き取ってしまいます。
突然の出来事に戸惑う金兵衛でしたが、やがて西念の蓄えた金を手に入れようと決心し、策を巡らせます。金兵衛は大家のもとへ行き、西念の死を報告し、さらに身寄りのない西念の家族代わりとなり、自身の菩提寺である麻布絶口釜無村（あざぶぜっこうかまなしむら）の木蓮寺（もくれんじ）で丁重に弔いたいと申し出ます。（当時の制度として、遺体を火葬するには菩提寺から「切手」という証明書が必要だったため、この申し出には筋が通っていました）。長屋の住人たちが集められると、金兵衛は皆の仕事に差し支えないよう、その夜のうちに寺へ遺体を運ぶことを提案し、皆の同意を得ます。西念の遺体を早桶の代わりに樽に入れ、荷車で木蓮寺や火葬場へ運ぶための人選が行われます。
ここで噺家は、下谷山崎町から木蓮寺までの道のりを、地名を連ねつつ情景描写を交えながら語る「地語り」という長いパートを演じることがあります。
木蓮寺に到着した金兵衛が山門を叩くと、現れたのは泥酔した和尚でした。弔いの費用として和尚が言い値の天保6枚（600文）を要求するのを値切ろうとしますが聞き入れられず、金兵衛は渋々承知します。しかし和尚は袈裟も払子も質に入れてしまったと言います。そこで長屋の者たちは風呂敷を和尚に着せて即席の法衣を作り、ハタキを持たせて払子代わりにし、茶碗を箸で叩いてリンの代わりにさせ、なんとか経を読んでもらいますが、その経文は非常に怪しく滑稽なものです。この混乱に乗じ、金兵衛は本堂の台所からこっそりと鯵切包丁を盗み出します。
長屋の者たちを帰らせ、一人で桐ヶ谷（きりがや）の火葬場に着いた金兵衛は、火葬場の作業員である隠亡（おんぼう）に、翌朝でないと火葬できないと言われるのを無理に脅しつけ、炉に火をつけさせます。さらに、遺体の腹の部分だけは完全に焼かずに生焼けにするよう異様な注文を付けます。
金兵衛は新橋で時間を潰し、夜が明ける頃に再び火葬場へ向かいます。焼骨を拾おうとする隠亡を追い払い、包丁で遺体の腹のあたりを切り裂いて探ります。すると、目論見通り大量の金銀が出てきたため、金兵衛は狂喜乱舞します。金兵衛は戸惑う隠亡と残された骨を尻目に、そのままその場を立ち去ります。
金兵衛はこの金銭を元手に、目黒で餅店を開業します。彼の店は商売が大いに繁盛し、「黄金餅」と名付けられたその店の餅は、江戸の名物として広く知られるようになった、という結末で噺は締めくくられます。
バリエーション
演じ方によっては、金兵衛と火葬場の隠亡が以前からの知り合いである、とするパターンもあります。また、三遊亭円朝作とされていますが、名古屋の地誌に似た話があるという記事を基に、登龍亭獅篭によって尾張落語として創作された「新・黄金餅」も存在します。
主な演者
物故者
五代目 古今亭志ん生
七代目 立川談志
現役
春風亭一朝
古今亭志ん彌
三代目 古今亭圓菊
関連項目
酉の市：寺社の年中行事で、縁起物として黄金餅が売られることがあります。
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