黒河内森林鉄道

黒河内森林鉄道：山奥を駆け抜けた森林鉄道

黒河内森林鉄道は、長野県伊那市長谷地域、かつての上伊那郡美和村（後の長谷村、現在の伊那市）に存在した森林鉄道です。林野庁長野営林局伊那営林署（現在の中部森林管理局南信森林管理署）が運営し、山奥深くから木材を運び出す重要な役割を担っていました。

路線概要

路線の起点は、現在の伊那市長谷黒河内の黒川。そこから東へ、三峰川の支流である黒川（小黒川）沿いに上流へと伸びていました。軌間は762mm（2フィート6インチ）で、総延長は11,896m。平均勾配は39‰、最急勾配は60‰という険しい地形に敷設されました。最小半径20mの急カーブも存在し、山間部ならではの線形でした。

主な経由地は以下の通りです。

蟹坂
尾勝
戸台
小黒川
東谷

さらに、東谷からは作業軌道が7,904m伸びていました。

車両

鉄道には3台の機関車が使用され、蟹坂に1台、小黒川に2台が配備されていました。また、木材運搬車は約80台が活躍していました。

歴史

黒河内森林鉄道の歴史は、1939年（昭和14年）に帝室林野局伊那出張所戸台伐木所が開設されたことに始まります。蟹坂から森林鉄道の敷設が開始され、1941年（昭和16年）には東谷、西谷の合流地点までが完成しました。その後、1943年（昭和18年）には小黒川伐木所が開設されました。

しかし、1956年（昭和31年）には鉄道は廃止され、線路は撤去。代わりに車道が新設され、木材運搬は自動車に切り替えられました。

沿線の見どころ

戸台谷インクライン

1942年（昭和17年）の山火事による被害木の搬出のため、戸台には木馬用インクラインが建設されました。岩が露出する急斜面に、長さ500m、高低差250m、傾斜30度の巨大なインクラインが築かれました。その高さは谷底から最大53mにも及び、12段の木製支柱によって支えられていました。このインクラインは「東洋一のインクラ」や「戸台の花」と呼ばれ、木馬が駆け下りる様子は壮観だったと伝えられています。しかし、1944年（昭和19年）7月、落石により支柱が倒壊し、その役目を終えました。

蟹坂土場

蟹坂には、伐採された木材の中継地点として、1941年12月に土場が竣工しました。面積は1.93haで、年間約3万5,000石（約1万m3）の木材を取り扱っていました。森林鉄道の廃止後、この場所は1973年（昭和48年）に長谷村に売却され、村営保養センター「仙流荘」として利用されるようになりました。

黒河内森林鉄道の遺産

黒河内森林鉄道は、その役目を終えましたが、その痕跡は今もなお、地域の歴史を物語る貴重な遺産として残っています。険しい山間部を駆け抜けた鉄道の歴史は、人々の暮らしと自然との関わりを今に伝えるとともに、近代林業の技術を垣間見ることができます。

参考文献

西村富夫「森林鉄道の想い出」『伊那路』第22巻第10号、上伊那郷土研究会、1978年
長谷村誌刊行委員会編『長谷村誌 2 自然編・現代社会編』長谷村誌刊行委員会、1994年
矢部三雄『近代化遺産 国有林森林鉄道全データ 中部編』信濃毎日新聞社、2015年

関連項目

浦森林鉄道：同地域にあった別の森林鉄道
林業、林道、森林鉄道
国有林、日本の国有林
帝室林野局
廃線、日本の廃止[[鉄道路線一覧]]
モータリゼーション
三峰川、美和ダム、戸台発電所
南アルプス（中央構造線エリア）ジオパーク

外部リンク

人と暮らしの伊那谷遺産プロジェクト 浦・黒河内森林鉄道跡
南信森林管理署

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