黒河龍三

黒河 龍三（くろかわ りゅうぞう）

日本の数学者、教育者。明治25年（1892年）10月9日に生まれ、昭和10年（1935年）1月に42歳で没した。旧制第一高等学校で長年にわたり数学の教壇に立ち、多くの秀才を育成した。

東京にて杉村彦右衛門の次男として生まれたが、外祖父である国学者・考証学者の黒川春村の跡を継ぎ、黒河姓を名乗った。

旧制第一高等学校を経て、大正5年（1916年）に東京帝国大学理学部数学科を卒業。大学卒業後すぐに母校である第一高等学校の数学講師として着任した。大正7年（1918年）には同校の教授に昇任し、並行して東京高等師範学校や東京文理科大学でも講師を務めた。

黒河の講義は、その内容とスタイルにおいて極めて個性的であった。彼は教科書を用いることなく、周到に準備された講義案に基づき、論理的に厳格かつ極めて明快な説明を行った。空間幾何学においては、「竹のひご」や「えんどう豆」といった身近な材料を用いた具体例を示し、学生の理解を深めた。また、三角関数が指数関数で表現でき、その逆関数は解析関数となることから、初等関数が結局は代数関数、指数関数、対数関数の限られた組み合わせで表されるという本質的な関係性を丁寧に説いた。

教え子の一人である数学者の吉田洋一は、黒河を東京帝大数学科においても滅多に見られないほどの傑出した秀才であったと述懐している。一高生時代には、毎日弁当を二つ持参して通学し、授業が終わると図書館に籠もり、閉館時間まで数学書を読み漁っていたという逸話が学生の間で語り継がれていた。数学以外の事柄にはほとんど関心を示さず、自己に対しては非常に厳格であったが、若い世代に対しては極めて親切で寛大であったという。学生が無茶な意見を述べても感情的に怒ることはなく、常に彼らの意見を真摯に傾聴した。

学内では教育活動の傍ら、一高科学会の会員や一高スキー部の部長も務めるなど、多様な活動に関与した。また、数学や教育以外にも、琴の名手という意外な一面も持っていた。

晩年には、親族を東京帝国大学病院で亡くした経験から、漢方医学に深く傾倒するようになった。平田内蔵吉の著書にも寄稿するなど、その関心は個人的な範疇を超えていた。しかし、自身の健康を損ない、胃潰瘍が悪化しても漢方による治療にこだわり続けた結果、病状が進行。病院に入院した時にはすでに手遅れとなっており、若くしてその生涯を閉じた。没後、その功績に対して正五位勲五等が追贈された。

家族としては、前述の外祖父・黒川春村のほか、父・杉村彦右衛門がいる。義父に文学博士の黒川眞道（黒川真頼の子）、妻に眞道の三女・綾子を迎えた。著書には、中川銓吉と共著の『高等立体幾何学通論』（共立社書店、1932年）がある。

黒河龍三は、その卓越した才能と情熱、そして学生への深い理解をもって、短い生涯の中で日本の数学教育に確かな足跡を残したと言えるだろう。

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