黒沼健

黒沼健（くろぬま けん）は、明治35年（1902年）5月1日生まれ、昭和60年（1985年）7月5日没の日本の作家です。本名は左右田道雄（そうだ みちお）。超常現象や超古代文明に関する著作で知られる一方、SF作家、翻訳家としても多岐にわたる活躍を見せました。

黒沼の出自は、裕福な家系にありました。父は銀行家の左右田金作の弟、左右田信二郎であり、従兄弟には経済学者で銀行家の左右田喜一郎がいました。この恵まれた環境が、黒沼の幅広い知識や多様な創作活動に影響を与えたことは想像に難くありません。

神奈川県横浜市に生まれた黒沼は、東京帝国大学法学部ドイツ法学科を卒業。その後、1931年より海外探偵小説の翻訳を開始します。戦前には雑誌『新青年』を中心に活躍し、日本文藝家協会や日本児童文芸家協会といった文学団体に所属。日本推理作家協会では理事を務めるなど、文壇において確固たる地位を築きました。

黒沼の活躍は、翻訳や文芸活動にとどまりません。東宝映画『空の大怪獣ラドン』の原作、『大怪獣バラン』の原案を担当したほか、大映テレビ室（現・大映テレビ）制作のテレビドラマ『海底人8823』では原作、脚本、主題歌作詞までを手がけています。単なる原作提供にとどまらず、『ラドン』や『バラン』の撮影現場に足を運び、積極的な姿勢で映画制作に携わったというエピソードは、黒沼の創作への情熱を物語っています。

また、黒沼は、予言者ノストラダムスを日本で最初に紹介した人物としても知られています。ノストラダムスの予言書は、当時大きな話題となり、黒沼による紹介が、日本におけるオカルトブームの火付け役となった側面も否定できません。彼の著作は、単なるエンターテイメントにとどまらず、社会現象を巻き起こすほどの影響力を持っていたのです。

黒沼の著作は多岐に渡り、超常現象、超古代文明をテーマにした作品から、怪奇小説、SF小説、そして翻訳作品まで、その幅広さは驚異的です。代表的な著書として『秘境物語』『謎と怪奇物語』『大怪獣バラン』『驚異物語』など、数多くの作品が出版されています。これらの作品は、彼の豊かな想像力と、膨大な知識に基づいて書かれており、読者に深い謎と興奮を与え続けています。

晩年は、超古代文明に関する著作に力を注ぎ、レムリア大陸などの存在を論じた作品を発表しました。これらの作品は、現代の考古学や歴史学の観点から見ると、必ずしも科学的な裏付けがあるとは言えませんが、当時の読者たちに大きな影響を与え、空想と現実の境界を曖昧にする魅力を持っていました。

昭和60年（1985年）7月5日5時32分、老衰のため83歳でこの世を去りました。横浜市蓮光寺に眠る黒沼健は、その多彩な才能と、時代を先取りした感性によって、日本の文芸史に、そして特撮映画史に、独自の足跡を残したと言えるでしょう。彼の作品は、現在でも多くの読者や研究者によって読み継がれ、その魅力は色褪せることはありません。

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