黒衣のアルバ女公爵

黒衣のアルバ女公爵

フランシスコ・デ・ゴヤによる『黒衣のアルバ女公爵』（La duquesa de Alba de negro）は、1797年に制作されたスペインのロマン主義の象徴的な肖像画です。この作品は、第13代アルバ女公爵マリア・デ・シルバ・イ・アルバレス・デ・トレドを描いており、現在はニューヨークにあるアメリカ・ヒスパニック協会に所蔵されています。

人物紹介

女公爵は1762年に、マドリードで生まれました。彼女は第12代アルバ公爵の末娘であり、幼い頃に父を亡くし、コリア女侯爵となりました。1775年にはいとこである第11代ビリャフランカ侯爵と結婚し、その後、マドリードの文化人を広く支援しました。その中には著名な劇作家や演出家、音楽家も含まれており、女公爵自身も18世紀後半のスペイン宮廷で注目される存在のひとりでした。彼女は特に、フランスの作家ジャン＝マリー＝ジェローム・フルーリオからその魅力的な姿を絶賛されたことでも知られています。

ゴヤとの関係についてはさまざまな噂がありますが、二人の間には強い絆があったとされています。一方で、女公爵は身体的な問題を抱えており、伝説にある『裸のマハ』や『着衣のマハ』のモデルについては諸説があります。1802年、女公爵は自宅で髄膜脳炎のため急逝しましたが、毒殺されたのではないかとも言われています。

作品の特徴

この肖像画では、黒いドレスを身にまとった女公爵が自然の風景の中に立っています。背景には、カディス近郊のサンルーカル・デ・バラメーダの風景が描かれていると考えられ、女公爵の未亡人としての悲しみや儚さを表現していると言えるでしょう。ゴヤの特異なタッチと、厚く塗られた黒いドレスに描かれた優美なラインは、女公爵の強い個性を効果的に引き立てています。

女公爵の姿勢や表情にも工夫が凝らされており、静寂を保ちながらも目を引く強さがあります。彼女は片手を腰に置き、もう片方の手では、「ゴヤのみ」と書かれた地面を指し示しています。この言葉は逆さまに書かれているため、見る者は一瞬戸惑いますが、その奇抜さが逆に印象を深めています。また、女公爵の指には「ゴヤ」と「アルバ」と刻まれた指輪が輝いており、彼女のアイデンティティが示されているかのようです。

この作品の筆遣いや色彩は、観る者に深い感動を与えると同時に、ゴヤの描くロマン主義的な精神を体現しています。背景は柔らかなトーンで描かれており、女公爵の繊細な顔立ちとの対比が美しさを際立たせています。

来歴

作品は女公爵が亡くなった後も長い間、ゴヤの手元に保管されていたとされており、彼にとって非常に重要な作品であったと推測されます。後に、この絵は彼の息子によって売却され、様々な手を経てフランスのルイ・フィリップ1世の所蔵となりました。ルイ・フィリップ1世は1850年に亡くなると、コレクションはイギリスに移り、その後も所有者が変わる中で、最終的にはアメリカ・ヒスパニック協会に寄贈されました。

このようにして、『黒衣のアルバ女公爵』は歴史を超えた美術作品として、現代においても多くの人々に感動を与え続けています。作品の深い象徴性や、ゴヤと女公爵の物語は、絵画だけでなく、彼らの時代における文化や社会を反映した重要な要素として語り継がれることでしょう。

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