鼠小僧次郎吉 (大佛次郎)

鼠小僧次郎吉

『鼠小僧次郎吉』（ねずみこぞうじろきち）は、小説家・大佛次郎が1931年（昭和6年）に発表した時代小説、およびそれを原作とする映像化作品群を指します。実在したとされる伝説的な義賊、鼠小僧次郎吉をモチーフに描かれたこの物語は、発表後、繰り返し映像化され、幅広い層に親しまれてきました。

小説版

小説『鼠小僧次郎吉』は、1931年1月号から雑誌『講談倶楽部』に18回にわたって連載されたのが初出です。後に単行本としてまとめられ、新潮社などから刊行されています。大佛次郎の著作権は存続しているため、青空文庫での公開はされていません。

映像化の歴史

この小説を原作として、これまでに複数回の映像化が行われています。特に、日本映画の草創期から発展期にかけて、サイレント映画として二度、そして昭和中期にはカラー劇映画として、さらに昭和後期にはテレビドラマとして製作されました。

1932年版 映画

最初の映画化は、小説発表の翌年、1932年（昭和7年）に製作・公開されたサイレント剣戟映画です。正篇は衣笠貞之助、解決篇は秋山耕作が監督を務めました。主演は林長二郎（後の長谷川一夫）が、鼠小僧次郎吉と浪人小谷新九郎の二役で演じています。白黒、スタンダードサイズのサイレント映画として製作されましたが、残念ながら現在、この1932年版の上映用プリントは確認されていません。

1933年版 映画

1932年版に続いて、翌1933年（昭和8年）にも新たなサイレント映画版が製作・公開されました。このバージョンは、山中貞雄が監督と脚本を務めた作品です。主演の大河内伝次郎が、次郎吉を含む三役を演じ分けるという趣向が凝らされています。「前篇 江戸の巻」「中篇 道中の巻」「後篇 再び江戸の巻」という三部作として公開されました。白黒、スタンダードサイズのサイレント映画でした。この1933年版もまた、上映用プリントの大部分は現存していません。しかし、中篇のごく短い断片（約30秒）が「玩具フィルム」として発見されており、これは大阪芸術大学によって復元され、公開されています。

1965年版 映画

時代が大きく下り、1965年（昭和40年）には、大映により三隅研次監督、新藤兼人脚本で再映画化されました。カラー、大映スコープ（2.35:1）のワイドスクリーンによる劇映画として製作され、現代的な映像表現が試みられました。主演は林与一が務め、次郎吉と小谷新九郎を演じています。この1965年版については、現在までにビデオグラムとしてリリースされたという情報は確認されていません。

1983年版 テレビ映画

さらに後の1983年（昭和58年）には、テレビドラマとして『鼠小僧次郎吉 必殺の白刃』というタイトルでリメイクされました。フジテレビ系列の『時代劇スペシャル』枠で放映された2時間の単発作品です。監督は鷹森立一が務めました。特筆すべきは、主演に1965年版と同じく林与一が起用され、脚本も新藤兼人が再び担当している点です。

これらの映像化作品は、それぞれの時代の映像技術や表現方法を用いながら、大佛次郎が創造した鼠小僧次郎吉の物語を様々な形で観客に届け続けています。特に初期のサイレント映画版のフィルムの大部分が現存しないことは、日本映画史における貴重な記録の喪失として惜しまれています。

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