1027作戦

1027作戦（1027さくせん、英語: Operation 1027）は、ミャンマー内戦の重要な局面を画した大規模な軍事攻勢です。2023年10月27日に、アラカン軍（AA）、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）、タアン民族解放軍（TNLA）からなる三兄弟同盟が開始しました。この作戦には、国民統一政府（NUG）の軍事部門である国民防衛隊（PDF）を含む他の抵抗勢力も参加し、2021年のクーデターで成立した軍事政権、国家行政評議会（SAC）に対して広範な攻撃を仕掛けました。作戦は目覚ましい成果を上げ、軍事政権にとって「クーデター後最大の後退」と評されるほどの打撃を与え、ミャンマー全体の戦局を大きく転換させることとなりました。

作戦の背景

作戦開始に至る背景には、2021年のクーデター以降激化したミャンマー内戦の状況があります。ミンアウンフライン率いる軍事政権（SAC）に対し、倒された国民民主連盟（NLD）勢力がNUGやPDFを組織して抵抗を開始しました。しかし、独立以来続く内戦に関与してきた多くの民族武装勢力（EAOs）は、反軍政の立場は共有しつつも、当初は必ずしもNUGと完全に連携していたわけではありませんでした。例えば、三兄弟同盟を構成するAAは軍政と一時停戦しており、MNDAAはかつての拠点を失って弱体化し、TNLAは軍との直接衝突を避ける傾向にありました。この時期、内戦の主要な戦場はザガイン管区などに移り、シャン州での戦闘は比較的落ち着いていました。

しかし、PDFの活動が活発化するにつれてミャンマー軍が疲弊し、EAOsが軍事政権に対する本格的な攻勢を準備する環境が整えられていきました。また、『The Diplomat』紙などが指摘するように、三兄弟同盟とともに北部同盟を形成するカチン独立軍（KIA）の本拠地近くへの軍による空爆も、1027作戦開始のきっかけの一つと考えられています。

特に、作戦の主要な目標の一つであったMNDAAの旧領地であるコーカンを巡る状況が重要な背景でした。2009年にMNDAAの指導者・彭家声がミャンマー軍と結んだ白所成に追放されて以来、コーカンは白所成とその配下の支配下にありました。この地域は白所成の後ろ盾となった軍政下で、オンライン詐欺の一大拠点となり、多くの人身売買被害者が強制労働させられるという深刻な人道問題が発生していました。中国政府は国境地帯での犯罪行為を取り締まるようミャンマー政府と白所成に圧力をかけていましたが、状況は改善せず、2023年10月20日には中国人を含む60人が殺害される事件（1020事件）が発生しました。コーカンにおける白所成の支配を問題視していた中国が、国境地域での軍事行動を黙認したことも、作戦実行を後押しした要因の一つと考えられています。中国は通常、ミャンマーとの国境沿いの勢力に対して抑制的な影響力を行使してきましたが、この作戦を妨げることはありませんでした。実際に、作戦直後の11月12日に中国が1020事件の主犯とされる明学昌一族に逮捕状を出したことは、中国政府が作戦を暗黙のうちに容認していた証拠であると分析されています。

作戦の経緯

第1次1027作戦

2023年10月27日、三兄弟同盟は共同声明を発表し、作戦の目的を「民間人の生命保護」「自衛権の主張」「領土支配の維持」「軍による砲爆撃への対応」「軍部の圧政根絶」「中緬国境のオンライン詐欺対策」と説明しました。作戦には三兄弟同盟の約15,000人の戦闘員に加え、PDF、人民解放軍（PLA）、バマー人民解放軍（BPLA）などが参加し、軍事政権の多数の拠点を同時に攻撃しました。作戦開始直後から抵抗勢力は顕著な戦果を挙げ、わずか5日間で軍事政権の基地約90ヶ所を占領し、重要な国境貿易都市であるチンシュエホーやパンサイを制圧しました。これにより、ミャンマーの輸出の大部分を占める中緬国境の貿易ルートが遮断されました。11月5日までに、抵抗勢力は150ヶ所を超える軍事基地を占領し、戦車を含む多くの兵器を鹵獲しました。

その後も抵抗勢力の進撃は続き、11月6日にはKIA、AA、PDFの連合軍がザガイン管区の県都コーリンを占領しました。県レベルの中心都市が抵抗勢力の支配下に入るのはこれが初めてのことでした。コーカン自治区でもコンジャンが陥落し、MNDAAは12月1日からコーカンの首都ラウカイへの進攻を開始し、2024年1月5日についに陥落させました（ラウカイの戦い）。TNLAもシャン州北部で攻勢を強め、ナムサン（パラウン自治区首府）やモンゴー、モンロンといった拠点を制圧しました。

作戦の進展を受けて、2024年1月11日に中国政府の仲介により、昆明で軍事政権と三兄弟同盟の会談が行われ、シャン州北部における限定的な停戦協定（海埂協定）が結ばれました。しかし、この協定はシャン州北部に限定され、その地域でさえ断続的な戦闘は続き、軍は2月10日にはコーリンを奪還するなど、情勢は不安定でした。

第2次1027作戦

海埂協定締結後も軍からの攻撃が続いたため、TNLAは2024年6月25日に停戦終了を宣言し、海埂協定は実質的に破棄されました。これをもって、1027作戦の第2波が開始されました。6月26日にはTNLAがナウンチョーを陥落させ、チャウメーの大部分も占領しました。さらに、TNLAとマンダレーPDFは7月25日にマンダレー管区のモーゴッを制圧し、MNDAAは8月3日にシャン州の重要都市ラーショーを制圧し、ミャンマー軍北東軍管区司令部を掌握しました（ラーショーの戦い）。8月12日にはマンダレーPDFがタガウンを占領するなど、抵抗勢力は広範囲にわたって軍事政権への圧力を強めています。

1027作戦は、ミャンマーの様々な抵抗勢力が協調して軍事政権に対し大規模な攻勢を成功させ、戦局を大きく有利に進める契機となりました。軍事政権の支配領域を大幅に縮小させ、「クーデター後最大の後退」を強いたこの作戦は、今後のミャンマー内戦の行方に大きな影響を与えています。

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