アラカン軍

アラカン軍（AA）

アラカン軍（Arakan Army, ラカイン語: အရက္ခတပ်တော်、略称AA）は、ミャンマー西部ラカイン州（旧称アラカン州）を主要な活動地域とする、ミャンマー国内で最も影響力のある民族武装組織の一つです。2009年4月10日に設立され、政治部門であるアラカン統一連盟（United League of Arakan, ULA）と連携して活動しています。現在の指導体制は、最高指揮官トゥワンムラッナイン少将とニョトゥンアウン准将によって率いられています。

彼らの武装闘争の主たる目的は、ラカイン族（アラカン族）の主権を回復することに置かれています。組織は「ラキータの道」と呼ばれる理念のもと、多民族からなるアラカン人の自決、民族的アイデンティティと文化遺産の保護・促進、そして民族全体の利益を追求し、ラカイン族の国家建設を目指しています。指導者は、ワ州連合軍（UWSA）と同等の地位を獲得することを目標の一つとして挙げています。クーデター後の国民統一政府（NUG）に対しては、その傘下に入る意思がないことを明確にしており、ラカイン情勢への介入を避けるよう要請しています。

設立当初、AAはカチン州ライザを「一時的な拠点」とし、カチン独立軍（KIA）と共にミャンマー軍と戦闘を経験しました。2011年にカチン紛争が勃発したため、当初の予定であったラカイン州への帰還が遅れましたが、2015年にはラカイン州に隣接するチン州パレッワ郡区などに拠点を築き始めました。同年のシャン州での戦闘には、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）やタアン民族解放軍（TNLA）といった他の民族武装勢力と共に参加しています。これらの経験は、AAの軍事能力向上に繋がったと考えられています。

ラカイン州における活動は、2016年頃から本格化し、ミャンマー軍との衝突が増加しました。特に2018年から2020年にかけては激しい戦闘が繰り広げられ、AAは治安部隊や軍への攻撃を積極的に行いました。これに対し、ミャンマー軍も大規模な攻勢で応じました。この期間の戦闘により、ラカイン州北部における中央政府の支配力は著しく弱体化しました。2020年後半には一時的な停戦が成立しましたが、この間に生じた権力の空白を利用し、AAは裁判所や警察機構の設立、COVID-19ワクチンの接種など、独自の統治機構の構築を試みました。

2021年のクーデター後のミャンマー内戦において、AAは重要なプレイヤーとなっています。軍事政権と民主派の双方から一時的にテロ組織指定を解除されましたが、2022年7月にミャンマー軍によるAA基地への空爆を契機に停戦は崩壊し、再びラカイン州やチン州で激しい戦闘が再開しました。軍の士気が低下する中、AAは国民統一政府を中心とする民主派勢力との事実上の連携を深めながら、ラカイン州南部への影響力拡大を図りました。2022年11月には人道的な理由による一時停戦に合意しましたが、緊張状態は続きました。

2023年には、シャン州北部で展開された三兄弟同盟（MNDAA, TNLA, AA）による大規模攻勢「1027作戦」に参加し、複数の軍基地を占拠するなど成果を上げました。同年11月にはラカイン州での戦闘を再開させ、2024年に入ると攻勢を強めました。チン州パレッワや、ラカイン州内のパウットー、ミンビャ、チャウットー、ミャウウー、ミェボンといった主要都市とその周辺地域を次々と支配下に置き、軍事政権にとって大きな脅威となっています。2024年12月には、アンにある西部軍管区司令部を占拠したと発表しました。

組織の規模については、指導者のトゥワンムラッナインは2024年2月に38,000人の兵力を持つと主張していますが、専門家からはより少ない規模（ラカイン・チン州で15,000人以上、カチン・シャン州で1,500人前後）とする推定もあります。AAは設立初期にKIAから訓練を受けましたが、後に独自の訓練基地をラカイン州に設立しました。兵站面では、中国製とされる武器の入手が確認されており、中国と関係の深いUWSAからの流入が示唆されています。また、中国の「一帯一路」構想を支持する一方で、ラカイン州での開発が地元にもたらす負の側面を批判することもあります。

AAは民族間の関係において複雑な側面を持っています。ロヒンギャの人々については、組織内に取り込んでいると主張する一方で、指導者による差別的な発言も報じられています。近年、特に2024年に入ってからの戦闘激化に伴い、軍事政権によるロヒンギャの強制徴兵や、AAによるロヒンギャコミュニティへの迫害（殺害、放火、強制徴兵、人質の利用など）に関する深刻な報告が相次いでいます。人権団体からは、ミャンマー軍とAA双方によるロヒンギャに対する人権侵害が告発されています。また、チン州パレッワを巡っては、クミ族などのチン族コミュニティとの間で長年の対立があります。

ミャンマー国外でも、AA関係者や資金提供者の取り締まりが行われた事例があります。シンガポールやタイでは、AAに関係するとされる人物が逮捕または拘束されています。

AAは、複雑な民族構成と歴史を持つラカイン州において、民族の権利回復を掲げて武装闘争を展開し、現在のミャンマー内戦において軍事・政治の両面でその影響力を急速に拡大している主要なアクターです。
な武装組織です。

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