11日戦争

11日戦争：第一次世界大戦東部戦線の終焉

11日戦争（じゅういちにちせんそう）は、第一次世界大戦の東部戦線における中央同盟国による最後の攻勢作戦であり、ファウストシュラーク作戦（Operation Faustschlag）とも呼ばれます。この作戦は、ロシア革命とそれに続く内戦によって弱体化したロシア軍に対し、中央同盟国がバルト三国、ベラルーシ、ウクライナといった広大な領域を占領し、ボリシェヴィキにブレスト＝リトフスク条約を締結させる結果となりました。

背景

1917年10月、ボリシェヴィキは十月革命によってロシアの権力を掌握し、第一次世界大戦からの離脱を宣言しました。同年12月3日、ソビエト政権と中央同盟国との間で停戦交渉がブレスト＝リトフスクで開始され、12月17日に戦闘停止が発効しました。しかし、12月22日から始まった和平交渉は難航しました。

中央同盟国は、1914年から1916年の間に占領したポーランド、リトアニア、西ラトビアの領土を要求しましたが、ボリシェヴィキはこれを拒否し、交渉を引き延ばそうとしました。これは、ロシア代表団のレフ・トロツキーが、ドイツ革命が起こり、ドイツが戦争から離脱することを期待していたためでした。しかし、ドイツ軍は既に西部戦線に兵力を移動させており、この遅延はドイツにとって容認できるものではありませんでした。

トロツキーは戦争継続派と即時講和派の中間の立場を取り、1月28日にはソビエトロシアが戦争終結を宣言しましたが、これはドイツにとって受け入れがたいものでした。ドイツ軍参謀のホフマン将軍は2月9日にウクライナ人民共和国と和平条約を結び、2月17日にはロシアとの休戦を破棄しました。

一方、赤軍の司令官ニコライ・クルィレンコは、ロシア軍の民主化と動員解除を進めていました。彼は軍の司令官を投票で選び、全ての階級を廃止し、兵士たちを故郷に帰していました。1月29日、クルィレンコは全軍に対して民主化を命令しました。

攻勢

2月18日、ドイツ軍とオーストリア＝ハンガリー軍は53個師団を率いて攻勢を開始しました。北方軍はプスコフからナルヴァへ、中央軍はスモレンスクへ、南方軍はキエフへそれぞれ進軍しました。

北方軍は16個師団から構成され、攻勢初日にダウガフピルスを占領し、さらにプスコフにも進軍しました。2月28日にはナルヴァを占領しています。中央軍はドイツ第19軍と第41軍団から構成され、スモレンスクへ進軍し、2月21日にはミンスクを占領しました。この時、ロシア西方軍集団の司令官が捕虜となっています。南方軍は、残存するロシア南西方面軍集団を突破し、2月24日にはジトーミルを占領しました。3月2日にはキエフが防衛されており、翌日にはウクライナ中央評議会の軍がキエフに到着しました。

中央同盟軍はほとんど抵抗を受けることなく、1週間で240kmも前進しました。ドイツ軍はペトログラードから160kmの地点まで進出し、ソビエト政府は首都をペトログラードからモスクワへ遷都せざるを得なくなりました。この戦いは、ドイツ軍がロシアの鉄道を利用して東に進出したことから、「鉄道戦争」とも呼ばれます。ホフマン将軍は2月22日の日記に、「これは今までで最も滑稽な戦争だ。私たちはただ列車に乗って、片手にサンドイッチを持っているだけだ」と記しています。

政治的影響

ドイツ軍の進撃が続く中、レフ・トロツキーはペトログラードに戻りました。多くの指導者は、軍の崩壊によってロシアが抵抗できないにも関わらず、戦争継続を望んでいました。しかし、ウラジーミル・レーニンは、攻勢がさらに激化する前にドイツの要求を受け入れるべきだとソビエト指導者に訴えました。レーニンを支持したのは、レフ・カーメネフ、グリゴリー・ジノヴィエフ、ヨシフ・スターリンなどです。

レーニンの議会支配を経て、ドイツの講和を受け入れる議決が166票中85票で可決され、中央委員会でも7対6の僅差で可決されました。トロツキーも考えを改め、3月3日にボリシェヴィキはブレスト＝リトフスク条約に調印しました。2月23日にはドイツ軍がレヴァルに到着し、翌日にはエストニア救済委員会がエストニアからの独立を宣言しました。しかし、ドイツ占領軍はエストニア政府を認めず、ドイツの占領局を設置しました。

2月24日、全ロシア・ソビエト中央執行委員会は、ドイツが提示した講和条件の受諾を決定しました。

結果

ボリシェヴィキの降伏により、中央同盟国はナルヴァから北ウクライナに至る戦線での進軍を停止しました。ボリシェヴィキはブレスト＝リトフスク条約によって南ロシアの全ての領土を放棄しました。次の数週間で、中央同盟国の南方軍は800km以上も進軍し、全ウクライナを占領しました。

ドイツ軍は、コーカサスとフィンランドでも作戦を継続しており、フィンランド内戦では白衛軍を支援しました。ブレスト＝リトフスク条約の締結によって、バルト海の海軍はクロンシュタットを除いてドイツ軍に引き渡され、オデッサの黒海艦隊は武装解除された上で係留されました。また、ボリシェヴィキは63万人のオーストリア＝ハンガリー帝国捕虜の返還に同意しました。

ブレスト＝リトフスク条約により、ソビエトロシアはエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ベラルーシ、ウクライナを放棄し、これらの国々がロシアの影響を受けずに独立して発展する可能性を開きました。ドイツはこれらの国々を自らの衛星国とすることを計画しましたが、西部戦線での敗北によって計画は実現しませんでした。その結果、ウクライナ、ベラルーシ、コーカサス地域、ポーランド、フィンランド、バルト三国が独立することになりました。

ボリシェヴィキ内では、レーニンの地位は盤石なものとなりましたが、ドイツ軍がバルト方面へ進出したため、3月12日にレーニンは首都をペトログラードからモスクワへと遷都しました。ブレスト＝リトフスク条約に関する議論は厳しく抑圧され、レーニンは、この条約受諾のような政治的リスクの高い選択を二度とすることはありませんでした。

脚注

参考文献

レフ・トロツキー（西山克典訳）　『ロシア革命　「十月」からブレスト講話まで』(柘植書房、1995年)　ISBN 4806803812
Gilbert, Martin (2008). The First World War: A Complete History. Phoenix. ISBN 9781409102793
Mawdsley, Evan (2007). The Russian Civil War. Pegasus Books. ISBN 9781933648156
Parrott, Andrew (2002). "The Baltic States from 1914 to 1923: The First World War and the Wars of Independence" (PDF). Baltic Defence Review. Retrieved 2013-01-27.
Raffass, Tania (2012). The Soviet Union - Federation or Empire?. Routledge. ISBN 9781136296437
Tucker, Spencer C.; Roberts, Priscilla Mary (2005). World War I: A Student Encyclopedia. ABC-CLIO. ISBN 9781851098798
* Woodward, David R. (2009). World War I Almanac. Infobase Publishing. ISBN 9781438118963

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