1914年の航空

1914年は、航空史において大きな転換期となった年です。この年の夏に第一次世界大戦が開戦したことにより、それまで黎明期にあった航空技術が軍事目的で急速に発展する契機となりました。

戦争前夜の航空活動

第一次世界大戦が始まる以前にも、世界各地で重要な出来事がありました。

年の初め、1月1日にはアメリカ合衆国フロリダ州において、セントピーターズバーグとタンパを結ぶ約35キロメートルの間に、一日二便の定期航空路が開設されました。ベノイストXIV水上機が使用され、トニー・ジャニュスがパイロットを務めました。これは、世界で最初期の商業的な定期航空サービスの一つです。

3月1日には、アルゼンチンの著名なパイロットであるホルヘ・ニューベリーが飛行中の事故により命を落とすという悲劇が起こりました。一方で、極地探検においては、ロシアのパイロット、ヤン・ナグルスキが北極探検隊の捜索を目的とした極地での飛行を実施し、航空機による探検支援の可能性を示しました。

4月20日には、モナコで第2回シュナイダー・トロフィー・レースが開催され、ハワード・ピクストンの操縦するイギリスのソッピースタブロイド機が優勝しました。これは水上機の技術発展を競う国際的な大会として定着していきます。

同日、メキシコのタンピコ事件に関連して、ジョン・ヘンリー・タワーズ率いるアメリカ海軍の航空隊が出動し、その後のベラクルス占拠において偵察任務にあたりました。これはアメリカ海軍航空隊にとって初の実戦参加となりました。

日本では、6月13日に帝国飛行協会主催による第1回民間飛行競技会が大阪で開催されました。この大会では、滞空時間部門で坂本寿一が31分22秒の最長記録を樹立し、高度部門では荻田常三郎が当時の最高記録となる2003メートルを達成するなど、日本の民間航空の黎明期における重要な記録が生まれました。

また、組織面では、7月1日にイギリス海軍が独自航空部隊としてイギリス海軍航空隊を創設しました。これは陸軍から独立した海軍航空隊の設立という点で注目されます。

第一次世界大戦と航空の変貌

1914年7月28日に第一次世界大戦が開戦すると、航空機の役割は劇的に変化しました。

戦前にはスポーツや探検、初期の輸送手段として見られていた航空機は、瞬く間に偵察、観測、そして戦闘へと用途を広げていきます。

開戦直後の8月26日、ロシアのパイロット、ピョートル・ネステロフは、敵の偵察機を撃墜すべく、自身のモラーヌ・ソルニエ単葉機で体当たりを試みました。結果的にプロペラが敵機に接触し、両機とも墜落しましたが、これは記録に残る最初の空中体当たり攻撃の一つとされています。

日本も大戦に参戦し、9月には海軍が青島のドイツ軍基地を偵察しました。9月5日には金子養三、井上二三雄、武部鷹雄が、翌日には和田秀穂、飯倉貞造がファルマン水上機で出撃し、これは日本海軍にとって初めての実戦飛行となりました。また、9月か10月にかけては日本陸軍も青島のドイツ軍要塞への爆撃を行いました。

本格的な空中戦の萌芽も見られました。10月5日には、フランス軍のジョセフ・フランツとルイ・クノーが搭乗したヴォアザンIIIが、機銃を用いてドイツ軍のアヴィアティクB.IIを撃墜しました。これは、航空機に搭載された機銃による最初の撃墜記録の一つであり、その後の航空機の武装化に大きな影響を与えました。

技術とインフラの発展

1914年には、大型機の開発や長距離飛行も実現しました。ロシアでは巨大なスヴャトゴール爆撃機の製造が開始されるなど、大型機の技術が芽生えました。

ノルウェーのパイロット、トリグヴェ・グランは7月30日、ブレリオXI-2単葉機でスコットランドからノルウェーまでの約465キロメートルを4時間10分かけて飛行し、北海を単独横断した最初の人物となりました。

また、航空を取り巻くインフラも整備され始めました。9月9日にはイギリス郵政省により初の公式郵便飛行が実施され、グスターブ・ヘィメルがヘンドン飛行場からウィンザー間を飛行し、郵便物を運びました。これは後の航空郵便サービスの礎となりました。

海軍航空の支援という点では、12月にイギリス海軍の水上機母艦「アーク・ロイヤル」が就役しました。これは最初から水上機母艦として設計・建造された画期的な艦船であり、航空機運用に特化した艦艇開発の始まりを示しました。

その他の動向

パラグアイでは、12月にパイロットのシルビオ・ペッティロッシがパラグアイ飛行クラブを設立し、その会長に就任しました。このような飛行クラブの設立は、各国の航空振興に貢献しました。

1914年は、第一次世界大戦の勃発という未曽有の出来事により、航空機が軍事技術として急速に進化を遂げた年です。同時に、定期航空路の開設や長距離飛行、民間競技会の開催など、戦前からの流れを受け継ぐ民間航空の発展も見られました。この年の出来事は、その後の航空技術と運用の方向性を決定づける重要な契機となったのです。

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関連情報: 航空に関する年表

※日本のデータは海軍を除く（出典: 『飛行の夢』和田博文, 2005; 『航空論叢』帝国飛行協会, 1914）

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