1918年イギリス総選挙

1918年のイギリス総選挙は、第一次世界大戦終結後の1918年12月14日に行われた、イギリス議会下院議員の選挙です。この選挙は、戦後初の選挙というだけでなく、選挙戦略の観点からも特筆すべき点が多く、歴史に名を刻む重要な選挙となりました。

選挙の背景:

前回の1910年総選挙では、自由党が第一党となりましたが、保守党と拮抗する状況でした。そのため、自由党は労働党やアイルランド議会党の協力を得て政権を維持していました。しかし、第一次世界大戦中のアイルランド問題や、戦争の推移に対する国民の不満の高まりから、自由党内部に亀裂が生じ始めます。特にガリポリの戦い、ソンムの戦いといった軍事作戦の失敗は、政府への批判を招き、挙国一致内閣は不安定な状態に陥りました。

こうした状況の中、自由党の陸軍大臣であったデビッド・ロイド・ジョージが、保守党と手を組み、アスキス首相を追い落とすことに成功。ロイド・ジョージを首班とする保守党との連立内閣が発足し、休戦直後に議会が解散され、総選挙へと至りました。この時、自由党はロイド・ジョージ派とアスキス派の二派に分裂していたため、選挙は自由党の分裂選挙という側面も持っていました。

選挙の制度的変化と選挙戦略:

1918年国民代表法の制定により、男性の普通選挙が実現し、女性にも一部参政権が認められました。これは、イギリスの選挙制度における大きな転換点であり、有権者数は前回の総選挙のおよそ4倍に増加しました。

ロイド・ジョージは、休戦協定直後の解散において、自由党の伝統的な政策である自由貿易や平和主義を主張しつつも、有権者の対独強硬な世論を巧みに利用しました。彼は「ドイツに徹底的に償わせる」というスローガンを掲げ、自由党アスキス派の議員に対し、自分に賛成するかどうかによって公認証書（クーポン）を与えるという戦略に出ました。

このクーポンは、ロイド・ジョージ派と保守党党首であるアンドルー・ボナー・ローの署名が入ったもので、これを保持した候補者は、保守党からの対抗馬が出場しない選挙区で有利に選挙戦を進めることができました。一方、アスキス派を支持した選挙区には、ロイド・ジョージ派の刺客候補が送り込まれ、激しい選挙戦が展開されました。

選挙結果とその後:

選挙の結果、ロイド・ジョージ率いる連立政権（保守党＋ロイド・ジョージ派）が圧勝しました。アスキス派は壊滅的な敗北を喫し、アスキス自身も落選しました。国民は戦争を勝利に導いたロイド・ジョージを支持したと言えるでしょう。しかし、この圧勝の裏には、自由党の分裂と、ロイド・ジョージの政治的基盤の弱体化が隠されていました。

選挙後、ロイド・ジョージ内閣は保守党員が多くを占めることとなり、自由党の掲げる政策を実行することが難しくなりました。また、自由党の主要な議員の落選は、党の求心力の低下を意味し、ロイド・ジョージの政策遂行能力も制約されました。外交面では、パリ講和会議におけるフランスのドイツに対する強硬な姿勢に追随し、ヴェルサイユ条約における過酷な賠償がドイツに課せられたことで、後にファシズム台頭の土壌を作ったとの指摘もあります。

日本の「クーポン選挙」との比較:

2005年の日本の衆議院選挙において、小泉首相が郵政民営化に反対する議員に刺客候補を擁立した戦略は、このイギリスの「クーポン選挙」になぞらえられることがあります。両選挙とも、特定の政策を推進するために、政党の枠を超えた選挙戦略が用いられた点が共通しています。しかし、歴史的背景や制度的環境は大きく異なるため、単純な比較はできません。

1918年のイギリス総選挙は、戦後の政治的再編、選挙制度改革、そして巧妙な選挙戦略が複雑に絡み合った歴史的な出来事であり、現代の政治にも示唆を与えてくれる選挙と言えます。

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