1920年の航空

1920年の航空の軌跡

第一次世界大戦の終結から間もない1920年は、航空技術とその運用が急速に進化を遂げた変革期でした。この年には、航空産業の基盤を築く重要な企業の設立、技術的な限界への挑戦としての記録飛行、そして航空インフラの整備といった、多岐にわたる出来事が発生しました。

英国では、後に数々の名機を生み出すデ・ハビランド社が新たに設立されました。また、第一次世界大戦で活躍したソッピース社が清算される一方で、ホーカー社が誕生するなど、航空機メーカーの顔ぶれが変化を見せました。ベルギーでも、SABCAが設立され、欧州各国の航空産業が再編成・強化されていく様子がうかがえます。

長距離飛行の分野では、イタリアのパイロット、アルトゥーロ・フェラーリンらが歴史的な偉業を成し遂げました。彼らは2機のSVA機を用い、困難な長旅を経てローマ・東京間飛行を見事に成功させ、大陸間の航空連絡の可能性を強く印象付けました。

技術的な進歩を示す記録飛行も相次いで樹立されました。アメリカ陸軍のLUSAC-11は、ターボチャージャーという革新的な技術を装備し、ルドルフ・シュレーダーの操縦により10,099メートルという当時の世界最高高度記録を打ち立てました。この記録は後に、同じ機体を操縦したジョン・マクレディによって10,518メートルへと更新されています。速度記録においても、フランスのパイロットたちが世界をリードしました。ベルナール・バルネ・ドゥロマネはS.P.A.D. S20で292.682 km/hを記録し、さらにジョゼフ・サジ＝ルコワントはわずか2ヶ月後にこれを上回る313.043 km/hを達成しました。サジ＝ルコワントは、その功績が認められ、この年のフランス飛行クラブ大賞を受賞しています。

航空インフラの整備も進みました。ロンドンでは、クロイドン飛行場が正式に開港し、英国の玄関口となる主要国際空港としての長い歴史をスタートさせました。スイスでは、後のスイス航空の礎となるアド・アストラ・アエロが設立され、民間航空網の広がりを予感させました。オーストラリアでは、現在も世界有数の航空会社であるカンタス航空が運航を開始し、広大な大陸を結ぶ空の道を切り拓き始めました。

日本においては、名古屋市に三菱内燃機製造会社が設立され、国内の航空機・エンジン開発における重要な一歩が踏み出されました。また、日本海軍の桑原虎雄大尉が水上機母艦「若宮丸」の甲板から航空機の離艦を成功させるなど、艦上機運用の研究も進められていました。

航空技術の優劣を競うレースも注目の的でした。水上機による第3回シュナイダー・トロフィー・レースでは、イタリアのルイージ・ボローニャがサヴォイア S.12で優勝を飾りました。また、飛行機の速度レースとして知られたゴードン・ベネット・カップは、フランスで開催された第6回大会をもって終了を迎えました。この大会でフランスのジョゼフ・サジ＝ルコワントが優勝し、フランスが規定回数優勝したため、カップは永久にフランスに留まることとなったのです。この大会には、アメリカから当時としては先進的な引き込み脚を備えた機体も参加しましたが、結果には繋がりませんでした。

その他、ドイツのドルニエ社が特徴的な水上機デルフィン Iの初飛行を行うなど、機体開発においても多様な試みが見られた年でした。また、フランスのパイロット、ポール・テストが洋上のベアルンにて着艦に成功するなど、将来の航空母艦運用に向けた重要な実験も行われています。

1920年は、世界各地で航空関連の活動が活発化し、技術的なブレークスルーとインフラの整備が同時に進んだ、現代航空の発展史において極めて意義深い一年だったと言えるでしょう。

関連項目
航空に関する年表
1919年の航空
* 1921年の航空

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