1929年の日本公開映画

1929年（昭和4年）に日本で公開された映画たち

1929年は、日本国内の映画館に数多くの作品が届けられた年です。この一年間（1月1日から12月31日まで）に商業公開された映画を振り返ると、そこには当時の世界と日本の映画界の息吹が感じられます。サイレント映画が全盛期を迎える一方で、新たな技術であるトーキーがその産声を上げた、まさに過渡期ともいえる重要な年でした。

公開された作品の製作国を見ると、圧倒的に多数を占めていたのがアメリカ映画です。ハリウッドで生み出されたエンターテイメント大作から社会派ドラマまで、多岐にわたるジャンルの作品が日本の観客を魅了しました。例えば、キネマ旬報ベストテンの外国映画部門で1位に選ばれたジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の『紐育の波止場』をはじめ、『四人の悪魔』『人生の乞食』といった評価の高い作品が続々と公開されています。また、サイレント映画の傑作として名高いフリッツ・ラング監督のドイツ映画『メトロポリス』や、カール・テオドア・ドライヤー監督のフランス映画『裁かるゝジャンヌ』など、ヨーロッパ各国から届けられた芸術性の高い作品も注目を集めました。

一方、日本の映画界も活発な動きを見せていました。日活、松竹キネマ、マキノ・プロダクション、東亜キネマ、帝国キネマ、河合映画製作社といった各社が、年間を通して多数の作品を製作・公開しました。特筆すべきは、複数の会社が同じタイトルで競作するユニークな現象が見られたことです。『波浮の港』や『君恋し』、そして年末に公開された『貝殻一平 前篇』などは、それぞれ異なる製作会社から同名作品として公開され、話題となりました。

この年の日本映画史における最大のトピックの一つとして挙げられるのが、トーキー映画の登場です。マキノ・プロダクションが製作した『戻橋』が、日本で初めてディスク式トーキーとして商業公開されました。まだサイレント映画が主流の時代でしたが、音と映像が一体となった「活動写真」は、将来の映画のあり方を示唆する画期的な出来事でした。

キネマ旬報が選出したこの年のベストテン作品も、当時の日本映画界の多様性を示しています。日本映画部門では、年間第1位に輝いた池田富保監督の時代劇『首の座』をはじめ、サイレント後期の時代劇の傑作とされる伊藤大輔監督の『浪人街 第三話 憑かれた人々』（3位）や、同じく伊藤大輔監督の『斬人斬馬剣』（6位）、そして『灰燼』（2位）、『生ける人形』（4位）、『摩天楼 争闘篇』（5位）など、様々なジャンルの作品が上位にランクインしました。

1929年は、世界恐慌の足音が忍び寄る社会情勢の中、映画というエンターテイメントが重要な役割を果たした一年でした。技術革新の波が押し寄せ、多様な作品がしのぎを削るこの時期は、その後の日本映画、そして世界の映画史を形作る上で、見逃すことのできない重要な節目と言えるでしょう。この年に公開された数々の作品は、当時の観客に夢や感動を与え、そして現代にまでその影響を残しています。

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