1930年ドイツ国会選挙

1930年ドイツ国会選挙：ナチ党の躍進とワイマル共和国の危機

1930年9月14日、ドイツで実施された国会選挙は、ナチ党（国民社会主義ドイツ労働者党）の驚異的な躍進によって歴史に刻まれることとなりました。この選挙は、世界恐慌下におけるドイツ社会の不安定さと、やがてヒトラーによる独裁体制へと繋がる重要な転換点となったのです。

選挙に至る経緯

ハインリヒ・ブリューニング首相は、世界恐慌による深刻な経済危機に対処するため、増税を含む財政改革案を議会に提出しました。しかし、この案は社会民主党、国家人民党、共産党、そしてナチ党といった幅広い政党の反対に遭い、否決されました。

ブリューニング首相は、大統領緊急令を発動して財政改革案を強行採決。議会を無視した大統領内閣による統治という、民主主義の原則を逸脱する危険な一歩を踏み出しました。これに対し、議会は緊急令廃止動議を可決。しかし、ブリューニング首相は直ちに議会を解散し、新たな選挙へと突き進んだのです。

激動の選挙戦

選挙戦は、各政党にとって大きな試練となりました。国家人民党は、政府支持派と反対派に分裂。保守人民党が結成され、ブリューニング首相の支持を受けました。一方、中道政党は統合に失敗し、勢力を弱めました。

ナチ党内部でも、突撃隊の反乱など混乱がありましたが、アドルフ・ヒトラーによる巧みな統制と、急増する党員による献身的な活動によって、選挙戦を有利に進めました。特に、ヨーゼフ・ゲッベルス率いる宣伝全国指導部は、大規模な集会や、当時としては画期的な政治宣伝映画などを活用した効果的なキャンペーンを展開。経済危機に対する国民の不満を巧みに利用し、反資本主義、反ユダヤ主義、そしてナチス独自の「民族共同体」というスローガンで国民の支持を獲得していきました。

特に、若年層や経済的困窮層を中心に、ナチ党への支持は拡大。一方、社会民主党や他のブルジョワ政党は高齢化が進んでおり、国民の支持を失いつつありました。また、農村部では国家人民党支持層の離反が顕著で、ナチ党の農業組織が台頭しました。

選挙結果とその後

選挙の結果、ナチ党は得票率18.3%を獲得し、12議席から107議席へと大躍進。社民党に次ぐ第2党となりました。ブリューニング首相の中央党は68議席にとどまり、国家人民党や他の多くの政党も議席を減らしました。左翼政党では、共産党が躍進し、77議席を獲得しました。

ナチ党の躍進は、世界恐慌による国民の不安と、ナチスの巧みな宣伝活動が合わさった結果です。抽象的な「資本主義」批判よりも、ヴェルサイユ条約やヤング案といった具体的な問題に焦点を当てたナチスの訴えが、国民の共感を呼んだと考えられています。

選挙後、ナチ党議員の傍若無人な行動は、議会政治の秩序を脅かし、社会不安を増幅させる要因となりました。しかし、議会主義政党は、ナチスの台頭を食い止めるために結束を強め、ブリューニング首相の権力は一時的に強化されました。

1930年ドイツ国会選挙は、ワイマル共和国の崩壊と、ナチス政権樹立への道を決定づける重要な出来事でした。この選挙の結果が、世界史の流れを大きく変えたことは、改めて強調する必要があるでしょう。

参考文献

エーリッヒ・アイク 著、救仁郷繁 訳『ワイマル共和国史 III 1926~1931』ぺりかん社、1986年
阿部良男『ヒトラー全記録 20645日の軌跡』柏書房、2001年
林健太郎『ワイマル共和国 ：ヒトラーを出現させたもの』中公新書、1963年
プリダム, G. 著、垂水節子・豊永泰子 訳『ヒトラー・権力への道：ナチズムとバイエルン1923-1933年』時事通信社、1975年
ヘーネ, ハインツ 著、五十嵐智友 訳『ヒトラー 独裁への道 ワイマール共和国崩壊まで』朝日新聞社〈朝日選書460〉、1992年
モムゼン, ハンス 著、関口宏道 訳『ヴァイマール共和国史―民主主義の崩壊とナチスの台頭』水声社、2001年

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