1931年の日本競馬

1931年（昭和6年）の日本競馬

1931年（昭和6年）は、日本の競馬界にとって制度面で大きな変化を迎えた一年となりました。この年の出来事を振り返るにあたり、馬齢は旧表記に基づいて記述します。

年の初めには、競馬の信頼性を損ないかねない馬名への対応が図られました。1月23日、農林省畜産局長から各競馬倶楽部に対し、「オヤオヤ」や「ヤレバワカル」といった、真面目さを欠くと見なされる馬名の登録申請は受理しないよう注意喚起が行われました。これは、競馬が社会的に認知されるための重要な一歩と言えるでしょう。

建築面では、帝国競馬協会が進める競馬会館の建設が進みました。1月24日には上棟式が行われ、年後半の10月には無事竣工。協会の事務局が新たな拠点に移転し、この建物は後に日本競馬会本部となるなど、日本競馬の中枢としての役割を担うことになります。

この年の最も重要な出来事の一つが、3月31日に公布された改正競馬法です。これにより、日本の競馬制度は大きく改められました。主な改正点は以下の通りです。

開催日数の制限: 年間開催日数が8日以内に制限されました。
政府納付金の引き上げ: 政府への納付金の上限が、従来の売得金の4%以内から6%以内に引き上げられました。
勝馬投票券の多様化: それまで単勝式のみだった勝馬投票券に、新たに複勝式が導入されました。一人あたりの購入枚数も、単勝・複勝それぞれ1枚ずつ認められるようになります。
特払い制度の新設: 的中者がいなかった場合の「特払い」制度が追加されました。

この法改正に伴い、農林省では施行に向けた準備を進めます。4月7日には関連する協議会が開催され、5月27日には改正競馬法施行規則の実施に関する打ち合わせ会が開かれました。そして、いよいよ6月1日には改正競馬法が施行され、新たな制度の下で競馬が運営されることになりました。

制度変更と並行して、具体的な競走運営に関する指示も出されています。6月4日、畜産局長は年間8日間開催の競馬倶楽部に対し、速歩競走と障害競走を合わせて30レース以上、できる限り集中して実施するよう通達しました。これは、特定の競走種別を奨励するための措置と考えられます。さらに、速歩競馬の公正な施行を確保するため、8月5日には速度や歩法の検査、側対歩馬の出走拒否、競走中に駈歩に変わった馬の失格といった詳細なルールに関する通達が出されました。

組織体制にも変化がありました。6月22日の農林省官制の一部改正により、「競馬官」という新たな役職が設置され、競馬行政の強化が図られました。

競馬場施設についても動きがありました。7月4日には、移転新築が進められていた小倉競馬場が、北方に完成した新たな施設として開場しました。

将来の競走馬の質向上に向けた取り組みも見られます。9月5日、畜産局長は陸軍からの要請を受け入れ、1933年以降にデビューする新馬に対し、体高の上限（サラブレッド牡馬1.64m・牝馬1.62m、アラブ種牡馬1.58m・牝馬1.56m）を設けることを通達しました。

新たな競馬場の計画も進行します。9月には、東京競馬倶楽部が東京府の府中町と多摩町にまたがる広大な土地、約24万坪を新競馬場用地として買収しました。これは、現在の東京競馬場につながる重要な動きです。

地方競馬の運営に関しても整備が進みました。10月には帝国馬匹協会が、地方競馬における騎手の登録や馬名の登録に関する規程を新たに定めています。

レースの公平性を高めるための負担重量に関する変更も行われました。12月16日、畜産局長は翌年11月以降のレースにおいて、馬が背負う負担重量や加増距離を、それまでの勝利数ではなく、獲得した賞金額に応じて算出する方法に変更するよう通達しました。これは、勝利数だけでは馬の能力を正確に反映しにくいという帝国競馬協会の意見が取り入れられた結果でした。

この年、競馬界を揺るがす出来事もありました。5月24日、横浜競馬場でのレース中に、コマツカゼという馬が発走を著しく遅らせるなど不審な行動を見せる「コマツカゼ事件」が発生します。この事態に対し、日本レース・クラブは5月31日、馬主の楠林徳次郎氏を永久競馬関与禁止、騎乗していた中住与之助騎手を永久騎乗停止という厳しい処分を下しました。

繁殖面では、血統の導入が進みました。種牡馬ダークファイヤが海外から輸入され、宮崎種馬場に配置されています。

また、この年には将来の競馬界を担う存在も誕生しています。競走馬ではミラクルユートピア、フレーモア、オーシス、ジユピターユートピア、プリメロなどが、人物では内藤繁春氏、大根田裕也氏、山崎彰義氏などが生まれています。

1931年は、法改正や制度改革が次々と行われ、日本競馬の基盤が大きく変化した、まさに過渡期と言える一年でした。これらの変革が、その後の日本競馬の発展に繋がっていくことになります。

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