1935年の航空

1935年は、航空技術の進化と商業航空の発展が目覚ましい一方で、幾つかの悲劇的な出来事も記録された年でした。特に長距離飛行分野では、パイロットたちが次々と新たな記録に挑戦し、人類の活動範囲が文字通り空を介して拡大していく様子が見られました。

年の始まりには、著名な女性パイロット、アメリア・イアハートが1月11日から12日にかけて、ハワイのホノルルからカリフォルニア州オークランドまで単独での太平洋横断飛行を成功させました。これは女性初の偉業であり、大きな注目を集めました。その数日後の1月15日には、ジミー・ドーリットルがアメリカ大陸横断飛行において、ロサンゼルスからニュージャージー州ニューアークまでを11時間59分で結び、当時の最速記録を更新しました。この記録は短期間で破られ、2月22日にはリーランド・アンドリュースが11時間34分で同じルートを飛行し、ドーリットルの記録を塗り替えています。これらの記録飛行は、航空機性能の向上を如実に示すものでした。

技術開発の面では、2月3日にドイツの航空技術者であるフーゴー・ユンカースがこの世を去りましたが、彼の遺した功績は航空産業の発展に引き続き影響を与えました。また、新世代の航空機が続々と初飛行を遂げました。日本の九六式艦上戦闘機が2月4日に、ドイツのメッサーシュミットBf109が5月28日に、そしてアメリカのボーイングB-17爆撃機が7月17日にそれぞれ最初の飛行を行いました。これらの機体は、後の軍用機の歴史において極めて重要な役割を果たすことになります。さらに、12月17日には旅客機として歴史に名を刻むことになるダグラスDC-3が初飛行。その経済性と信頼性の高さから、世界中の航空会社で運用され、航空旅行の普及に大きく貢献しました。

商業航空路線網の拡大も進みました。4月1日にはスイス航空がチューリッヒとロンドンを結ぶ定期運航を開始。4月13日には、カンタス航空とインペリアル航空が協力し、オーストラリアのブリスベンとロンドン間の長距離定期航空路が開設されました。パンアメリカン航空は太平洋横断への挑戦を進め、4月16日から17日にかけてシコルスキーS-42水上機によるアメリカ本土からハワイまでの初の旅客輸送試験飛行を実施しました。さらに、11月22日にはマーチンM130飛行艇を用いて、サンフランシスコからホノルル、ミッドウェー島、ウェーク島、グアム島を経由しマニラに至る太平洋横断郵便飛行を開始。これは太平洋を越える定期航空路開設に向けた重要な一歩でした。

一方で、悲劇的な出来事も発生しました。2月12日、アメリカ海軍の大型飛行船「メイコン」がカリフォルニア沖で失われる事故が発生しました。5月18日にはソ連で、8発エンジンの巨大機ANT-20「マクシム・ゴーリキー」号がモスクワ上空でのデモ飛行中に随伴していた小型機I-5と空中衝突し墜落。乗員・乗客合わせて45名が犠牲となりました。6月24日にはコロンビア国内で、SACOとSCADTAという二つの航空会社のフォード・トライモーター機同士が衝突。この事故では、有名なアルゼンチンのタンゴ歌手カルロス・ガルデルを含む15名が亡くなりました。

記録飛行の分野では、7月1日からキー兄弟（Algene KeyとFrederick Key）がカーチス・ロビン機を使用し、空中給油を受けながら653時間34分という驚異的な無着陸飛行記録を樹立しました。気球による高高度飛行でも記録が生まれ、11月11日にはアルバート・W・スティーブンスとO・A・アンダーソンが22,066mという新記録を樹立しています。また、女性パイロットのジーン・バテンは11月11日から13日にかけてイギリスからブラジルまでの飛行を成功させ、女性として初めてセネガルからブラジルへの南大西洋単独横断を達成しました。

著名なパイロットたちの喪失もありました。単独世界一周飛行を初めて成功させたウィリー・ポストは8月5日、アラスカでの飛行中に墜落し命を落としました。11月8日には、チャールズ・キングスフォード・スミスが搭乗する「レディ・サウザンスミス」号がアンダマン海上で行方不明となりました。

国際情勢においては、3月16日にナチス・ドイツ政府がヴェルサイユ条約を破棄して再軍備を宣言し、ドイツ空軍が正式に設立されました。これは第二次世界大戦に向けての不穏な動きの一つであり、航空技術が軍事力増強に利用される時代の到来を告げるものでした。

年間を通して、多くの航空関係者がその功績を称えられました。ハーモン・トロフィーはエドウィン・ムシックやアメリア・イアハート、ジーン・バテン、そして気球高度記録樹立者のオーヴィル・A・アンダーソンとアルバート・W・スティーブンスらに授与されました。ナショナル・トロフィーやデラボー賞なども、各国のパイロットや航空技術者たちの成果を称える形で贈られています。

1935年は、技術革新による航空機の性能向上、それを活用した商業路線の拡張と長距離飛行への挑戦が進み、現代につながる航空網の礎が築かれ始めた重要な一年と言えるでしょう。同時に、航空黎明期ならではの事故や、著名なパイロットたちの悲劇も経験した、光と影が交錯する年でもありました。

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