1936年のラジオ (日本)

1936年は、日本のラジオ放送にとって、社会情勢の大きな変動と技術的な進歩が交錯する、極めて印象的な一年となりました。

この年、ラジオはスポーツ中継の新たな地平を切り開きました。2月9日には、日本のラジオ史上初めてとなるプロ野球の試合中継が実現しました。名古屋中央放送局が、鳴海球場で行われた東京巨人軍対名古屋金鯱軍の一戦を、ローカル放送として全国に先駆けて届けたのです。

しかし、同年2月26日には、日本の近代史における重大な事件である二・二六事件が発生しました。この緊迫した状況下で、ラジオは重要な情報伝達媒体としての役割を担いました。東京中央放送局は、事件発生当日の夜から、臨時ニュースを随時挿入する体制を敷きました。戒厳司令部が置かれた軍人会館に設けられた臨時放送室からは、民間人の避難指示や「市民心得」といった司令部発表が継続的に放送されました。さらに、事件収束に向けて、2月29日には終日報道特別番組が編成され、午前8時48分には、中村茂アナウンサーによって、反乱部隊に対する「兵に告ぐ」と題した帰順勧告が放送されました。

ラジオ放送網のインフラ面でも重要な動きがありました。日本放送協会は、東京中央放送局の送信能力強化計画に伴う混信問題に対処するため、7月1日をもって全国各地の放送局の周波数を大幅に変更しました。東京中央放送局では、第一放送と第二放送の周波数が入れ替えられました。

組織の面では、日本放送協会の初代会長である岩原謙三氏が、7月12日に狭心症のため74歳で死去するという出来事もありました。

地方におけるラジオの普及も進みました。日本放送協会は、同年後半にかけて放送網を拡大し、11月22日には帯広、11月30日には山形、そして12月14日には鳥取で新たに放送を開始しました。

番組編成においても、新たな試みが開始されました。2月には名古屋中央放送局で前述の「職業野球試合」中継が開始されました。4月には東京中央放送局の第一放送で「生活改善講座」、第二放送で「勤労青年の時間」が、大阪中央放送局では「新歌謡曲」がスタートしました。さらに6月には、大阪中央放送局で始まった「新歌謡曲」が「国民歌謡」と改題されました。これらの番組は、当時の社会情勢や人々の生活様式を反映したものでした。

1936年は、スポーツ中継開始、二・二六事件における報道活動、全国的な周波数再編や地方局開設といったインフラ整備、そして多岐にわたる新番組の登場など、日本のラジオ放送が社会的な影響力を強め、基盤を固めていった重要な転換期と言えるでしょう。

もう一度検索