1944年の航空

1944年 航空史の軌跡：戦火と技術革新の交錯

1944年は、第二次世界大戦の戦局がクライマックスへと向かう中、航空分野において技術開発が加速し、戦術・戦略が大きく変化した激動の一年でした。各地で繰り広げられた大規模な作戦や新型機の登場は、その後の航空史に決定的な影響を与えています。

年明け早々、イタリアの急降下爆撃機サヴォイア・マルケッティSM.93が初飛行を果たしました。2月には、太平洋戦線でアメリカ海軍が日本軍の重要拠点トラック諸島に対し、壊滅的な航空攻撃を実施しました（トラック島空襲）。一方、ヨーロッパでは、アメリカ第8空軍などによるドイツ本土への大規模爆撃作戦「ビッグウィーク」が行われ、戦略爆撃の激化を示す出来事となりました。

春には、ドイツでユニークな全翼型戦闘爆撃機ホルテンHo229の無動力プロトタイプが初飛行。また、ドイツ設計機であるメッサーシュミットBf 108やMe 208の製造権がフランスのSNCAN社に移管され、ノール パングァンやノール ノラルファとして新たな命を得た機体も初飛行しています。国内では、航空隊を描いた映画『加藤隼戦闘隊』が公開されました。しかし、イタリアのヴェスヴィオ火山噴火により、周辺飛行場のアメリカ軍機約80機が失われるという自然災害も発生。さらに、川西二式飛行艇で移動中の日本海軍連合艦隊司令長官、古賀峯一大将ら高級士官が遭難する「海軍乙事件」が発生し、日本海軍に大きな衝撃を与えました。ドイツでは試作高等練習機Ar 396が空へ。

6月に入ると、連合軍によるノルマンディー上陸作戦の一部として、大規模な空挺降下作戦が敢行され、航空機を用いた兵員輸送・展開の重要性が改めて示されました。同じ時期、原子爆弾の搭載を想定した特殊仕様のB-29、「シルバープレート」が初飛行。後に歴史を動かすことになるこの機体の誕生は、この年の特筆すべき出来事の一つです。イギリスでは重爆撃機アブロ リンカーンの試作機が初飛行。また、ドイツのV1飛行爆弾（Fi 103）によるイギリス本土への攻撃が開始され、無人兵器による都市攻撃が現実のものとなりました。

日本本土への航空攻撃も本格化し、6月15日にはB-29による八幡製鉄所への空襲が行われました。太平洋ではサイパンを巡るマリアナ沖海戦が発生。史上最大規模の空母同士の戦いとなり、日本の航空戦力に壊滅的な損害を与えました。この海戦の最中、世界で初めて空中発射式の巡航ミサイルとしてFi 103が実戦投入されています。

夏には、日本初の国産ヘリコプター、特殊蝶番レ号試作1号機が試験中に大破。アメリカ海軍向けの試作艦上戦闘機F14Cが初飛行。ドイツでは、ロケット戦闘機メッサーシュミットMe 163がロイナの燃料精製施設空襲時に初めて実戦に投入されました。また、著名な作家であり飛行家のアントワーヌ・ド・サン＝テグジュペリが偵察飛行から未帰還となるという悲劇も発生しました。ドイツではブローム・ウント・フォスBV 144、ユンカースJu 287といった試作機が初飛行。初のジェット偵察機アラドAr 234の試作機がノルマンディー地区で偵察任務に投入されました。B-29はセイロン島からスマトラ島パレンバンへの最長距離作戦を敢行。イギリスではB-24Hリベレーターの墜落事故により多くの犠牲者が出ました。アメリカ海軍の艦上攻撃機BTMもこの頃初飛行しています。

秋に入ると、ドイツはV2ロケットによるロンドン攻撃を開始し、弾道ミサイルの脅威を示しました。連合軍はオランダで大規模空挺降下作戦「マーケット・ガーデン作戦」を実施。太平洋では、アメリカ空母機動部隊による南西諸島からフィリピンへの空襲（台湾沖航空戦）と、それに対する日本側の反撃が行われました。マリアナ諸島からのB-29による初出撃がトラック諸島へ行われ、東京上空には偵察機ボーイングF-13（改修型B-29）が進入。日本陸軍は風船爆弾の放球を開始しました。

年末にかけて、北部ノルウェーでは戦艦ティルピッツがイギリス爆撃機により撃沈されました。初のジェット戦闘機の一つであるロッキードYP-80Aシューティングスターが評価のためにヨーロッパ戦線へ。ドイツでは単発単座ジェット戦闘機ハインケルHe162が初飛行。日本国内では東南海地震が発生し、名古屋周辺の航空機工業が甚大な被害を受けました。また、著名なジャズミュージシャン、グレン・ミラーがノールダインUC-64Aノースマンに搭乗中に行方不明となる出来事も発生しました。

1944年は、戦略爆撃の本格化、原子爆弾輸送機の登場、ジェット機やロケット機、巡航ミサイル、弾道ミサイルといった新兵器の実戦投入や開発が急速に進んだ年であり、航空技術と戦術が大きく転換点を迎えた、まさに航空史の重要な一年と言えるでしょう。

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