1947年の日本の女性史

1947年（昭和22年）の日本の女性史

1947年、敗戦から立ち上がろうとする日本において、女性たちは大きな変革期を迎えていました。新憲法が施行され、それに伴う法改正によって、女性の権利と社会的地位はかつてないほど向上しましたが、同時に戦後の混乱や生活苦も続いていました。この一年間に起こった女性に関する出来事を時系列で辿り、その時代に生きた女性たちの姿を描き出します。

年初からの動き

年が明けた1月から2月にかけて、様々な分野で女性たちの組織化が進みました。全日本教員組合協議会（全教協）や全日本炭礦労働組合（全炭）、私鉄総連などで婦人部が結成され、働く女性たちの権利や生活についての議論が活発化しました。特に炭鉱労働組合では、働く女性と主婦の関係が話し合われています。また、2月には新たな参議院議員選挙法が公布・施行され、20歳以上の男女に選挙権、30歳以上に被選挙権が付与されるなど、政治参加の門戸が大きく開かれました。しかし、同じ2月には八高線列車脱線転覆事故が発生し、食料品の買出しに向かう主婦や娘たちが多数犠牲となるなど、当時の厳しい生活状況を象徴する出来事も発生しています。

法改正と社会運動の活発化

3月に入ると、大阪の主婦たちが主導する物価値下げ運動が全国に広がり、生活を守るための消費者運動が実を結び始めます。3月9日には戦後初の国際婦人デーが開催され、皇居前広場に集まった人々が「ヤミとインフレの政府を倒し、明るく楽しい生活を」「女性を苦しめるすべての拘束を撤廃しよう」といったスローガンを掲げ、デモ行進を行いました。この月には、全教協が母性保護を含む労働協約を獲得し、生理休暇や産前産後休暇、育児時間などが具体的に定められるなど、働く女性の権利保障が進展しました。厚生省には児童局が新設され、母子衛生課が設置されるなど、母子保健体制の整備も始まります。教育分野でも、3月31日に教育基本法（旧法）が公布・施行され、教育機会の均等と男女共学、女子の高等教育機関への門戸開放が定められました。一方で、評論家の市川房枝が公職追放を受けるという出来事もありましたが、追放解除を求める署名が多数集まるなど、その活動に対する支持も根強いものでした。

新憲法と法制度の変革

4月から5月にかけては、女性の権利と地位に根本的な変革をもたらす重要な法改正が相次ぎました。4月7日には労働基準法が公布され、男女同一賃金の原則、女子労働者の坑内労働禁止、産前産後の有給休暇などが法的に保証されました。5月1日には産婆規則が助産婦規則に改正され、「産婆」の名称が消滅しました。そして5月3日、日本国憲法が施行され、各地で施行を祝う祭典が開かれました。この日同時に施行された「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」により、旧法上の家制度の根幹が覆され、妻の無能力規定の不適用、婚姻・離婚の自由と平等、財産均分相続などが規定され、新しい家族制度への一歩が踏み出されました。過密な通勤状況の中、女性や子供を保護するため、中央線や京浜東北線に婦人子供専用車が登場したのもこの時期です。

多様な活動と社会状況

夏にかけても女性たちの活動は続きました。6月には日教組婦人部が結成され、スポーツ分野では初の女子中学ソフトボール大会が開催されました。当時の片山哲首相はラジオで「婦人に望む」と題し、新しい家庭の建設や経済危機克服への協力を女性たちに呼びかけました。官公庁で初の職場結婚（継続勤務を前提とした結婚）が公認されるなど、職場における新しい価値観も芽生え始めました。演劇界では松竹歌劇団組合が結成され、待遇改善を求めました。また、東京都では家庭内職用のミシン貸出しが開始され、内職による家計の助けとなる施策も行われました。

秋には、9月1日に労働省が発足し、初代婦人少年局長に山川菊栄が就任するなど、女性労働行政が本格化しました。同年には大日本紡績貝塚工場で女性労働者を巡る労働争議が発生し、「女工哀史」を彷彿とさせる劣悪な労働環境が報告されるなど、労働者の権利確立に向けた課題も浮き彫りとなりました。日本電機三田労働組合の婦人部による賃上げストライキも実施されています。10月には国家公務員法が公布され、公務員採用における男女平等原則が定められ、女性も公務員として資格取得の道が開かれました。また、改正刑法により姦通罪が廃止されるなど、法制度の近代化が進みました。

年末の動きと社会現象

年末に向けて、ユニークな出来事も見られました。11月には多摩川畔で初の集団見合大会が開催され、各地で同様の企画が流行するなど、新しい出会いの形が登場しました。日比谷公会堂では世界婦人円卓会議が開かれ、世界各国の代表が「新建設への婦人の役割」について議論を交わしました。国会では衆議院の女性議員たちが、本会議での混乱に対し「トラ議員」の反省を求める決議を行うなど、政治の場での存在感を示しました。女性専用のお茶の水図書館が開設されたり、妊婦への食料配給が行われたりするなど、女性の生活や健康に配慮した取り組みも行われています。

12月には、女性や子供たちの福祉を拡充する重要な法律が公布されました。職業安定法により、職業紹介や職業指導における性差別が禁止されました。児童福祉法は、保育所の設置促進や妊婦・乳幼児への母子保健事業の整備を定めました。そして、改正民法と改正戸籍法が公布され、憲法施行に伴う応急措置法の内容が正式な規定となり、家制度が完全に廃止され、夫婦と子供を中心とする新しい戸籍制度が始まり、夫婦どちらの姓を名乗ることも可能になるなど、家族のあり方が大きく変化しました。

この年の社会と女性たち

1947年は、前述の様々な法改正に加え、「女子年少者労働基準規則」や「事業附属寄宿舎規則」が施行され、労働基準法における女子や年少者の労働条件、寄宿舎生活の自治などが具体的に定められました。ファッションにおいては、和服を洋服やスカートに作り替えるリフォーム服製作が盛んに行われ、もんぺ姿からスカート姿への変化が見られるようになりました。リーゼントや電気パーマといった髪型も流行し始めています。社会の国際化も進み、アメリカ軍将兵と日本人女性の国際結婚も800組を超える届出がありました。

この年は、日本の政治・社会において女性の参画が本格化した年でもあります。新憲法のもと行われた初の統一地方選挙や国政選挙では、多くの女性が立候補し、参議院で10名、衆議院で15名の女性議員が当選しました。知事や市長といった首長選挙での女性当選者はいませんでしたが、村長選挙では4名が当選し、地方議会では多くの女性議員が誕生しました。また、労働省婦人少年局長や各地の教育委員、民生委員など、様々な公職に女性が進出しました。一方で、戦後の混乱は生活にも影を落としていました。主食の配給は遅れがちで、特に都市部では深刻でした。子供たちの弁当が奪われる事件が頻発したり、性病が蔓延したりするなど、社会的な困難も抱えていました。こうした状況の中、女性の保護や更生を目的とした施設も開設が相次ぎました。

文化面では、少女雑誌『ひまわり』が創刊され、中原淳一の挿絵が人気を博しました。笠置シヅ子の『東京ブギウギ』が大ヒットするなど、新しい時代の歌が生まれ、人々に活力を与えました。この年は第一次ベビーブームの最中であり、多くの新しい命が誕生した年でもありました。

1947年は、法的な権利が確立され、社会進出の道が開かれた希望に満ちた側面と、戦後の混乱や生活苦という厳しい現実が混在した、日本の女性史においてまさに激動の転換点と言える一年でした。女性たちは権利獲得のための活動や社会運動に参加し、困難な生活の中で家族を支え、新しい時代の担い手として様々な分野で活躍を始めたのです。

もう一度検索