1949年のル・マン24時間レース

1949年のル・マン24時間レースは、戦後復興期のヨーロッパにおいて開催された、歴史的にも重要な大会でした。1945年の第二次世界大戦終結後、ヨーロッパ各国は社会経済的に大きな打撃を受けており、レース開催にこぎつけるまでには時間を要しました。この1949年大会が、戦後初のル・マン24時間レースとなったのです。

戦前のレースでは、市販スポーツカーのみが参加資格がありました。しかし、戦後のレース再開にあたっては、この条件では参加台数を確保することが困難と判断されました。そこで、フランス西部自動車クラブは、市販を計画している段階の車両も参加を認めるという、画期的な決定を下しました。これが「プロトタイプカー」の始まりです。

プロトタイプカーの参加には条件がありました。灯火類、フロントガラス、トランクスペース、スペアタイヤといった装備が義務付けられ、公認メーカーによる製造と、各国レース統括団体による確認書の提出が求められました。当初は暫定措置として設けられたこの規定でしたが、後にメーカー各社は開発費を投じて高性能なレーシングカーを製作するようになり、プロトタイプカーはル・マンの主役となりました。

1949年のレースには49台のマシンが出走しました。戦前の弱小メーカーは多く姿を消し、ドライエやブガッティといった名門メーカーも例外ではありませんでした。そんな中、フェラーリが1,995ccの166MMで初出場を果たし、世界的なメーカーとしての地位を確立する第一歩を踏み出しました。しかし、完走したのは19台という厳しい結果となりました。

優勝したのは、ルイジ・キネッティとセルズドン男爵ピーター・ミッチェル・トムソンのペアがドライブしたフェラーリ・166MMでした。24時間で3178.279kmを走り抜き、平均速度は132.420km/hを記録しました。記録としては目覚ましいものではありませんでしたが、戦後のル・マンを制したという事実が、この勝利に大きな意味を与えています。

このレースは、戦後の混乱期において、自動車産業の復興とスポーツの力強い復活を示す象徴的な出来事となりました。プロトタイプカーという新しいカテゴリーの誕生は、レースの歴史に大きな変化をもたらし、後のル・マン24時間レースの発展に大きく貢献しました。また、フェラーリの初参戦と優勝は、メーカーの国際的な知名度を高める契機となり、現代の自動車レース界に多大な影響を与えました。この大会は、決して華々しいものとは言い切れませんが、自動車レース史における重要な転換点として、常に記憶に留めておくべきレースと言えるでしょう。

参考文献
『ルマン 伝統と日本チームの戦い』グランプリ出版 ISBN 4-87687-161-2
ドミニク・パスカル著、日沖宗弘訳『ル・マンの英国車』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-068-8
黒井尚志『ル・マン 偉大なる草レースの挑戦者たち』集英社 ISBN 4-08-780158-6

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