1960年のテレビ (日本)

1960年の日本のテレビジョン放送

1960年（昭和35年）は、日本のテレビジョン放送史において、技術とインフラストラクチャーの飛躍的な進歩、そして多様な番組の誕生が特徴的な一年となりました。特に、カラーテレビの本放送開始と、東京タワーへの送信所集約が進んだことは、その後のテレビの普及と発展に大きな影響を与えました。

主要な出来事

この年の最も画期的な出来事は、カラーテレビの本放送が開始されたことです。1960年9月10日、NHKの東京・大阪両総合および教育テレビと、日本テレビ、ラジオ東京テレビ（当時のKRテレビ、現TBSテレビ）、読売テレビ、朝日放送テレビといった主要局で一斉にカラー放送が始まりました。これは、前年に郵政省の調査会でアメリカと同じNTSC方式が採用されることが決定し、この年6月に正式に日本の標準方式として定められたことを受けて実現しました。本放送に先駆け、同年7月からは東芝を皮切りに、各社から国産カラーテレビ受像機の市販も開始されました。

また、この年には在京テレビ局の送信所が東京タワーへ集約される動きが進みました。1月17日にはラジオ東京テレビが、5月16日にはNHK教育テレビが東京タワーへ送信所を移転し、NHK東京総合テレビ、フジテレビ、日本教育テレビ（NET）と共に映像出力が10kWから50kWへと大幅に増強されました。これにより、より広範囲への電波到達が可能となり、受信環境が改善されました。日本テレビも送信所移転は行いませんでしたが、3月12日には他局と同等の出力に増強しています。

さらに、地方でのテレビ局開局も相次ぎました。秋田放送（現：ABS）、山形放送（YBC）、福井放送（FBC）、宮崎放送（現：MRT）といった民放局が誕生したほか、当時アメリカ施政下にあった沖縄でも2局目となる琉球放送（RBC）が開局しました。NHKも宮崎に総合テレビを開局しており、これによりテレビ視聴可能なエリアが全国的に拡大していきました。

組織面では、ラジオ東京が11月29日に「東京放送」（略称：TBS）へと社名変更し、これに伴いテレビの呼称も「KRテレビ」から「東京テレビ」（翌年「TBSテレビ」に変更）へと変わりました。この動きは、翌年以降、地方の放送局が「ラジオ〇〇」から「〇〇放送」へと社名を変更する契機ともなりました。

テレビ番組の動向

カラーテレビ本放送開始に伴い、NHKを中心に既存番組のカラー化や新たなカラー番組の制作が進みました。レギュラー番組としてNHK総合テレビでは自然ドキュメンタリー『自然のアルバム』やクイズ番組『それは私です』、毎日放送では公開演芸番組『素人名人会』などが始まりました。また、NHKの幼児向け番組『おかあさんといっしょ』内で人形劇『ブーフーウー』がスタートし、人気を博しました。ラジオ東京テレビ（現TBS）では、紀行番組『兼高かおる世界の旅』が始まり、30年に及ぶ長寿番組となりました。

個別の番組に関する出来事としては、1月7日にNET（現テレビ朝日）で放送開始した特撮ドラマ『新 七色仮面』で千葉真一が主演デビューを飾りました。また、10月12日には、NHK総合テレビでプロ野球日本シリーズ「大洋対大毎」第2戦を中継中に、日本社会党の浅沼稲次郎委員長暗殺事件が発生し、NHKは直ちに野球中継を中断して臨時ニュースに切り替え、事件を速報するという出来事がありました。

日本テレビのバラエティ番組『光子の窓』では、10月30日と最終回（12月25日）に特別にカラー制作・放送が行われ、特に10月30日の回はカラーVTRを使用した芸術性の高い作品として芸術祭奨励賞を受賞しています。プロ野球日本シリーズでは、10月11日に行われた第3戦が、日本シリーズ史上初のカラー中継として記録されました。

この年の年末には、TBSで『第2回日本レコード大賞』が生中継され、松尾和子・和田弘とマヒナスターズの「誰よりも君を愛す」が大賞に輝きました。また、大晦日には『第11回NHK紅白歌合戦』が放送されました。

その他の話題

技術面では、ソニーが4月30日に世界初となるトランジスタテレビ（モノクロ、8インチ）を発売し、携帯用テレビの可能性を示しました。また、郵政省は6月18日、「テレビジョン放送に関する送信の標準方式」を制定・公布し、NTSC方式を法的に位置づけています。

1960年は、カラー化、インフラ整備、全国的な広がり、そして多様な番組の誕生という多角的な面で、日本のテレビ放送が本格的な成長期に入ったことを示す、極めて重要な転換点となった一年でした。

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