1961年の日本の女性史

1961年（昭和36年）日本の女性をめぐる動き

1961年の日本では、女性たちが社会の様々な局面で活発な動きを見せました。国際会議への参加や労働環境の改善要求、物価上昇への抗議、地域での活動、母子福祉の向上など、多岐にわたる分野で女性たちの声があがり、具体的な行動につながっています。ここでは、その一年の主な出来事を時系列に沿って見ていきましょう。

年始の国際交流と国内活動

年の初めには、女性たちの国際的な交流が活発に行われました。1月にはオーストラリアで第9回汎太平洋東南アジア婦人会議が開かれ、日本から12名が出席。また、カイロで開催されたアジアアフリカ婦人会議には、田中寿美子らが参加しました。国内では、全国農協婦人団体連絡協議会（農婦協）が結成10周年記念大会を開催し、「一人一人の豊かな体験を組織し結集して暮らしを高めよう」をスローガンに掲げ、約1300名が集まりました。日本教職員組合の教研では、家庭科の女子必修化を巡って、男女それぞれの特性や役割について激しい議論が交わされています。この時期には、全国発明婦人協会が発足し、厚生大臣の中山マサが会長に就任しました。

消費者運動と労働環境への関心

2月に入ると、物価上昇に対する女性たちの抗議行動が目立ち始めます。地婦連など7つの婦人団体が物価値上げ対策に関する懇談会を開き、消費者保護政策の実施を首相に申し入れました。関西主婦連は物価や公共料金の値上げに反対するため東京へ上京し、東京駅前で反対署名活動を展開しました。3月1日には、日生協婦人部会や主婦連、農婦協などが参加する物価値上げ反対婦人大会が開かれ、エプロン姿でのデモ行進が行われています。また、3月8日の国際婦人デー中央大会では、賃上げやILO条約の批准、物価高への反対などが決議され、全国各地でも記念集会が催されました。この他、労働省婦人少年局は事務の機械化や経営合理化に伴う女子事務職員の処遇について、企業の人事担当者との懇談会を開催し、変化する労働環境への対応を探りました。地域婦人団体の活動も活発化し、第1回全国地域婦人大会では「公明選挙運動」「青少年対策と地域婦人会活動」が議題に上がっています。児童福祉の分野では、板橋区で園長や父母会、保母（現在の保育士）の協力による学童保育「みどり会」が誕生しました。

新たな組織の誕生と社会問題への取り組み

4月には「日本婦人教室の会」（後の「日本民主婦人の会」）が結成され、赤松常子が会長に就任しました。また、働く女性たちの権利向上を目指す第6回はたらく婦人の中央集会が開かれ、大幅な賃上げや同一労働同一賃金、最低賃金制、母体保護、保育所整備などが重要なテーマとして話し合われ、2500名が参加しました。地方でも、長野県連合婦人会が第1回信州婦人大会を開催するなど、女性たちの連携が広がっています。4月1日には須賀川市で子持ちの女子職員に退職勧告が行われるなど、女性の雇用を巡る問題も発生しました。教育分野では、5月1日に文部省に婦人教育課が設置され、女性教育への関心が高まりました。社会問題への取り組みも進み、労働省などによる売春撲滅運動が全国的に実施されたほか、神戸市長田区の婦人共励会は、日雇いの女性たちのために託児所「ひなづる園」を開設しています。これは戦後間もなく組織された未亡人たちの集まりが、母子家庭や寡婦の福祉を目的とする活動へと発展したものです。6月には、女性議員が党派を超えて推進した「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止に関する法律」が公布されました。国際的な連携としては、婦人団体連合会などがアジア・アフリカ子ども会議を、国連NGO国内婦人委員会などが国連憲章調印記念婦人指導者セミナーを開催しています。労働組合の動きとしては、全日本損害保険労働組合がキーパンチャーやタイピストの職業病対策として休憩時間の確保などを要求しました。また、沖縄では人権協会が米兵による妻子置き去り帰国について調査を開始しています。夏の総評主婦の会大会では、「内職などに頼らず生活できるよう、組合と共に大幅賃上げを勝ち取るために、労働者の妻としての自覚を持とう」といった決議がなされました。

秋の多様な動きと新たな制度

8月には婦人少年局が農村婦人問題研究会議を初めて開催し、今後の施策の参考としました。第7回日本母親大会には1万4000人が参加し、母親運動と政党の関係などが議論されました。教育機関では、産業能率短期大学が女子社員向けの訓練コースを設置しています。中央の経済官庁である通産省で上級職の女性が初めて採用されたのはこの年の9月でした。国家公務員上級試験の女性合格者数も前年より大幅に増加しています。労働環境の改善として、そごう百貨店労働組合は2週間のつわり休暇を獲得しました。10月には、東京都が売春婦の更生を指導する全国初の総合施設「女子保護センター」を開設しました。一方で、郵政省が育児時間の弾力的使用を禁止するなど、育児支援に関する制限が強化される動きも見られました。託児所の拡張制限や年齢制限を強める公社もありました。10月には衝撃的な赤ちゃん盗み出し事件が発生し、世間の耳目を集めました。地域では、長野県東筑摩の婦人問題研究集会で結婚衣装の打掛廃止が決議されるなど、生活習慣の見直しも行われました。政治的な動きとしては、政暴法案や学力テスト、物価上昇への反対を訴える母親大会が開催されました。交通分野では、東京で初の女性個人タクシーが登場しています。スポーツ界では、日紡貝塚女子バレーボールチームがヨーロッパで無敗を続け、「東洋の魔女」として広く知られるようになりました。

年末の法整備と社会・文化のトピック

11月には、炭坑のお母さんとの話し合いや、高知県での基地撤去要求など、特定の課題に焦点を当てた集会が開かれました。政暴法案反対署名運動を行った昭和女子大学生2名が登校停止処分を受けるという出来事もありました。教育分野の法整備として、女子教育職員の出産時に補助職員を確保するための法律が公布され、産休補助員の法的立場が明確化されました。全日本婦人連盟の記念式典では、「皇室の尊厳を守る」署名が行われるなど、保守的な動きも見られました。一方、保育所要求婦人大会が開かれるなど、保育施設の整備を求める声も根強くありました。11月29日には児童扶養手当法が公布され、貧困母子家庭の子どもへの手当支給が決まりました。これは母子家庭の福祉にとって重要な一歩でした。母体保護運動も続けられ、ILO条約批准を目指す活動が行われました。社会的な話題としては、アンネ社が紙製生理用品「アンネナプキン」を発売し、驚異的な売上げを記録、これが長期にわたり生理用品の代名詞となるほどの影響を与えました。早稲田大学教授の発言から始まった「女子学生亡国論」論争は、女子教育のあり方や女性の社会進出について議論を巻き起こしました。文化面では、『青鞜』などの婦人雑誌を中心とした婦人文芸運動の50周年を祝う集いが行われています。全国未亡人団体協議会による「お母さんの貯金旅行」も始まり、新たなレクリエーションの形が生まれました。年末には主婦連が消費生活に関する「苦情の窓口」を開設し、行政との連携を深めることで消費者運動の強化を図りました。また、大浜英子が女性として初めて中央選挙管理会委員長に就任するという画期的な出来事もありました。

この年の社会状況と女性たち

1961年には、社会状況の変化に伴い、女性たちの暮らしや働き方にも影響がありました。好況を背景に女性の雇用者が増加しましたが、税金の配偶者控除制度が発足するなど、家庭における女性の役割を前提とした制度も見られました。シームレスストッキングの流行や男性向け美容室の開設など、消費文化や美容への意識の変化も窺えます。社会問題としては少年少女の睡眠薬遊びが流行し、厚生省が未成年者への販売を禁止しました。婦人少年局の調査によると、全産業の男女事務従業者の構成比は男性63％、女性37％で、女子事務員の平均給与は男子の約半分に留まっており、男女間の賃金格差が明らかになりました。離婚に関しては、慰謝料や財産分与について取り決めた夫婦は4割に過ぎず、夫が妻に財産を分けたケースは2割未満であることが労働省の調査で報告されており、離婚後の女性の経済的な厳しさがうかがえます。

1961年は、女性たちが様々な組織や活動を通じて、労働条件の改善、生活の安定、社会参加の拡大を目指し、国内外で具体的な行動を起こした年であり、同時に社会の変化が女性たちの生活に様々な影響を与えた一年であったと言えるでしょう。

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