1963年のラジオ (日本)

1963年のラジオ

1963年は、日本のラジオ放送が技術革新と多様化を遂げ、新たな時代への一歩を踏み出した重要な年です。この年、特に注目すべきは、将来のFMステレオ放送実用化に向けた動きが本格化したこと、そして地域に根ざした新たな放送局が開局したこと、さらにリスナーのニーズに応えるべく多種多様な番組が開始されたことです。

FMステレオ放送への道筋

1963年のラジオ界で最も特筆すべき出来事の一つは、FMステレオ放送の実現に向けた技術的な進展です。5月、NHKの東京FM実験局は、放送技術研究所の一般公開において、後に日本の標準となる「パイロット・トーン方式（AM-FM方式）」によるステレオ試験放送を実施しました。これは、米国で採用されていた方式に準拠するもので、今後のFMステレオ放送の技術的な基盤を築く上で画期的な試みでした。この試験放送は、当時の皇太子殿下が同研究所を視察された際にも行われました。

この技術的な動きと並行して、制度的な決定も進みました。6月27日には電波技術審議会の臨時総会で、日本のFMステレオ方式としてこのパイロット・トーン方式が正式に採用されることが答申され、確定しました。これにより、各放送局は将来の実用化に向けた具体的な準備を進めることが可能となりました。

民放でもステレオ放送への取り組みが始まりました。6月25日にはFM東海（現・TOKYO FM）が、同じパイロット・トーン方式によるステレオ実験放送を開始。さらに9月1日には、実験段階から一歩進んで、この方式によるステレオ番組の放送を開始しました。これは、民放としてはいち早いステレオ放送への挑戦であり、今後の商業FM放送の可能性を示すものでした。

年末に向けて、NHK-FMの体制も強化されました。12月16日には、全国8ヶ所に設置されていたNHK-FM放送実験局が実用化試験局へと移行しました。特に東京局では、初の単一チャンネルによるステレオ放送の運用を開始。これに伴い、12月17日からは「クラシックコンサート」、21日からは「魅惑のムード」、22日からは「午後のレコードコンサート」といった、ステレオ音声に対応した新しい番組が次々と始まりました。また、それまでラジオ第1・第2で放送されていた「立体音楽堂」も、この日からはFM東京局でステレオ同時放送が行われるようになり、特に音楽番組における音質の向上が図られました。

AMステレオ実験と新局開局

FMステレオが注目される一方で、AM放送におけるステレオ化への試みも行われました。2月3日には東京放送（TBS）が、AM電波一本でステレオ音声を実現するAFM方式による実験放送番組『ラテン・リズムをどうぞ』を開始しました。これはFMとは異なる技術方式でしたが、AM放送におけるステレオ化の可能性を探る初期の実験として注目されました。

放送局の数もこの年に増加しました。4月1日には、現在それぞれ栃木県と茨城県の地域放送局として親しまれている、ラジオ栃木（現・栃木放送）と茨城放送（現・LuckyFM茨城放送）が開局しました。これにより、それぞれの地域における情報提供や文化振興を担う新たなラジオの拠点が誕生しました。さらに9月2日には、日本短波放送（現・日経ラジオ社）が第2プログラムの放送を開始。これは、経済情報や教養番組を中心に、短波放送で全国に向けて発信するもので、専門性の高い情報ニーズに応える役割を担うことになりました。

多様な新番組の登場

この年も、各局で多岐にわたるジャンルの新番組が多数始まりました。NHKラジオ第1放送では、子供向け番組の『なかよしホール』、ニュース解説の『きょうのハイライト』、経済の動きを伝える番組、文化・芸能を紹介する番組など、幅広い層に向けた編成が展開されました。NHKラジオ第2放送では、『通信高校講座』といった教育番組や、『科学の世界』、『働く婦人』のような教養・社会情報番組が開始されました。

民放各局も、リスナーの嗜好に応える様々な番組をスタートさせました。ニッポン放送では、音楽番組の『日立ミュージック・イン・ハイフォニック』が始まり、良質な音楽を求めるリスナーに支持されました。中部日本放送（CBCラジオ）の『ハイ、今日は! CBCラジオです』や、大阪放送（ラジオ大阪）の『今日はふるさとさん』といった、地域に密着した情報やパーソナリティとの交流を楽しむ番組も登場しました。ラジオ関東（現・アール・エフ・ラジオ日本）では、社会問題をテーマにした『白い粉の恐怖』や、政治家を招いた『選挙に強くなろう』など、硬派な番組も見られました。また、STVラジオでは朝の音楽番組やリクエスト番組、深夜番組など、多様な時間帯に向けた番組をスタートさせています。

結び

1963年は、FMステレオ放送の実用化に向けた技術的・制度的な進展が大きく進み、日本のラジオ放送の将来像を形作った一年でした。同時に、新しい放送局の開局や、多岐にわたるジャンルの番組が各局で始まり、ラジオが提供する情報とエンターテイメントの選択肢がさらに広がりました。技術革新と番組内容の充実が両輪となって、ラジオはより多くの人々の生活に深く浸透し、情報メディアとしての地位を確固たるものとしていく基礎が築かれた年と言えるでしょう。

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