1966年シリアクーデター

1966年シリアクーデター：バアス党分裂の引き金

1966年2月、シリアで若手バアス党員によるクーデターが発生し、シリア政界に大きな変化をもたらしました。このクーデターは、バアス党内の保守派と急進派の対立が激化した結果であり、シリアとイラクにおけるバアス党の分裂という深刻な帰結をもたらしました。

クーデターの発端：権力闘争の激化

1960年代のシリアでは、バアス党が政権を掌握していましたが、党内には保守派と急進派の二つの派閥が存在しました。保守派はミシェル・アフラクら創設メンバーを中心に、穏健な路線を主張していました。一方、急進派はサラーフ・ジャディードら若手党員を中心に、より急進的な社会主義政策を推進しようとしていました。この両派閥間の対立は、次第に激しさを増していきました。

1965年には、民族指導部と地域指導部間の権力争いが表面化します。若手派閥は、民族指導部の決定に反発し、武力行使も辞さない姿勢を見せました。この状況下で、保守派は若手派閥の主要メンバーへの異動命令を出します。これがクーデターの引き金となりました。

クーデターの展開：ダマスカスでの武力衝突

2月21日、保守派による異動命令が発令されると、ジャディード率いる急進派は即座に反撃を開始しました。ダマスカス、アレッポ、デリゾール、ラタキアなど主要都市で激しい戦闘が勃発しました。戦闘は数日間にわたり続き、多くの死傷者が出ました。

クーデター軍は、まず大統領府を攻撃し、大統領を含む保守派指導者を拘束しました。その後、各地の反政府勢力を鎮圧し、クーデターは成功します。アフラクら保守派指導者たちは国外に逃亡し、バアス党はシリアとイラクで完全に分裂しました。

クーデター後のシリア：急進路線の強化と軍の役割

クーデター後、ジャディード率いる急進派が政権を掌握しました。ジャディード政権は、シリア社会の抜本的な改革を目指し、急進的な社会主義政策を推進しました。しかし、この政策は必ずしも成功したわけではなく、社会に混乱をもたらす側面もありました。

クーデター後、国防大臣に任命されたハーフィズ・アル＝アサドは、クーデターには反対の立場をとっていましたが、やがてジャディード政権の中枢を担う存在となります。軍事委員会は、クーデター以前は若手将校の意思決定において重要な役割を果たしていましたが、クーデター後はその影響力が低下しました。ジャディードは自ら首相や大統領の職に就くことはせず、影の実力者として政権を掌握しました。しかし、軍の管理をアサドに委ねたことは、後にジャディード政権の崩壊につながる大きな誤算となります。

バアス党の分裂：シリア派とイラク派

アフラクらの失脚は、バアス党の分裂を招きました。党はシリア派とイラク派に分裂し、それぞれ異なる路線を歩むことになります。シリア派はジャディードを中心とし、急進的な社会主義路線を堅持しました。一方、イラク派はアフラクを党の創設者と位置付け、より穏健な路線を志向しました。この分裂は、アラブ世界におけるバアス運動全体に大きな影響を与えました。

結論：1966年シリアクーデターの意義

1966年シリアクーデターは、シリア近代史における重要な転換点となりました。このクーデターによって、シリアは急進的な社会主義路線へと舵を切り、同時にバアス党は深刻な分裂を経験しました。この出来事は、後のシリア政治やアラブ世界情勢に大きな影響を与え続けました。バアス党内の権力闘争が、国家の運命を左右するほどの大きな影響力を持っていたことを示す出来事と言えるでしょう。また、クーデター後のアサドの台頭は、後のシリアの長期独裁体制へとつながる重要な一歩でもありました。

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