ラタキア

ラタキア：地中海の古代都市から現代の港湾都市へ

ラタキアは、シリア西部の地中海に突き出た半島に位置する、シリア最大の港湾都市です。ダマスカス、アレッポ、ホムスに次ぐシリア第4の都市であり、ラタキア県の県都でもあります。人口は約55万人で、その歴史は古代にまで遡ります。

ラタキアの悠久の歴史

古代ラオディケイア

ラタキアは、古代ギリシア時代には「レウケ・アクテ（白い岬）」と呼ばれ、フェニキア人もこの地に都市を築きました。その後、セレウコス1世ニカトールによって大規模な都市へと発展し、「ラオディケイア」と改名されました。「海に臨むラオディケイア」とも呼ばれ、セレウコス朝の四大都市の一つに数えられました。

ストラボンは、ラオディケイアを良港を有し、豊かな土地に囲まれた立派な都市として記述しています。特にブドウ栽培が盛んで、アレクサンドリアに輸出されるワインの主要産地であったと伝えられています。また、ヘロデ大王が水道整備を行ったことや、ローマ共和政末期に大きな災害に見舞われたことも記録に残っています。ローマ時代の凱旋門は現在も街に残っており、当時の繁栄を物語っています。新約聖書にもラオディケイアのユダヤ人社会に関する記述が見られます。

中世以降

494年と555年の大地震でラオディケイアは大きな被害を受けますが、638年にイスラム勢力の支配下に入ります。その後、東ローマ帝国や十字軍の支配下に入る時期もありましたが、1287年にマムルーク朝によって完全にイスラム勢力の支配下に入ります。16世紀から第一次世界大戦まではオスマン帝国の一部となり、ラタキア周辺はアラウィー派が多く居住する地域となりました。

フランス委任統治領と独立

第一次世界大戦後、フランス委任統治領シリアとなり、1922年にはアラウィー派国家が設置され、ラタキアはその中心都市となりました。1930年にはラタキア国として名目上の独立を達成するも、フランスとシリアの独立条約締結後、1936年にはシリアに再統合され、1946年にはシリアの独立とともにラタキア県の中心都市となります。独立後も、アラウィー派による自治を求める反乱が何度か発生しました。

シリア内戦

2011年から続くシリア内戦において、ラタキアはアラウィー派住民が多いことからアサド政権への支持が強く、大規模な戦闘は避けられています。しかし、反政府勢力との小規模な戦闘は散発的に発生しています。

ラタキアの現在

経済・交通

ラタキアはシリアの主要港であり、天然の良港として機能しています。アレッポ、ホムスなどの都市と道路で結ばれ、農産物の輸出入の中心地となっています。瀝青、アスファルト、穀物、綿花などを主要輸出品としており、綿繰り、植物油製造などの地場産業も存在します。

特に、ラタキア産の燻製タバコは「ラタキア」と呼ばれ、世界的に知られるパイプたばこのブランドとなっています。独特の風味と香りは、パイプタバコ愛好家には非常に人気があります。

高等教育機関としてティシュリーン大学（1971年設立）があり、バースィル・アル＝アサド国際空港も擁しています。

観光

ラタキアには、度重なる地震にもかかわらず、ローマ時代の凱旋門やバッカスの列柱など、古代ローマ時代の遺跡が残されています。また、近郊にはサラーフッディーンの城やウガリット遺跡などの歴史的観光地もあります。ウガリット遺跡からは、楔形文字やウガリット文字などの貴重な古代文字の粘土板が発見されており、古代文明研究において重要な役割を果たしています。

ラタキアは、古代からの歴史と現代の港湾都市としての機能を兼ね備えた、魅力的な都市です。その歴史と文化、そして人々との出会いは、訪れる者に忘れられない体験を与えてくれるでしょう。

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