1968年南アフリカグランプリ

1968年南アフリカグランプリ：悲劇の影と輝きを放った開幕戦

1968年1月1日、南アフリカ・キャラミサーキット。F1世界選手権の開幕戦、1968年南アフリカグランプリの旗が振られた。このレースは、後に悲劇的な結末を迎えることになる伝説的ドライバー、ジム・クラークの最後の輝きを刻む舞台となった。

ロータス49の圧倒的性能

この年のF1は、フォード・コスワース・DFVエンジンの登場によって大きな転換期を迎えていた。その革新的なエンジンを搭載したロータス49は、圧倒的な速さを誇り、クラークはポールポジションを獲得。決勝レースでも、序盤からライバルたちを寄せ付けない走りを見せ、見事ポール・トゥ・ウィンを果たした。この勝利は、前年終盤からの連勝の流れをそのまま引き継ぐものだった。

激動のドライバーラインナップ

1968年シーズンは、ドライバーたちの移籍劇も大きな話題を呼んだ。前年チャンピオンのデニス・ハルムはブラバムからマクラーレンに移籍。マクラーレンのオーナー、ブルース・マクラーレンとのニュージーランドコンビを結成し、新たな挑戦を始めた。ブラバムはヨッヘン・リントを迎え、クーパーはルドビコ・スカルフィオッティとブライアン・レッドマンを起用。フェラーリにはクリス・エイモンに加え、ジャッキー・イクスとアンドレア・デ・アダミッチが加入。BRMにはマイク・スペンスとペドロ・ロドリゲスが参戦した。そしてこの年から、マトラがF1に本格参入。ワークスチームのマトラ・スポールと、セミワークスチームのマトラ・インターナショナルの2チームが参戦した。

中でも注目を集めたのは、マトラ・インターナショナルチーム。ケン・ティレル率いるこのチームには、将来のチャンピオン、ジャッキー・スチュワートが起用され、強力なDFVエンジンを搭載したマシンを駆った。スチュワートはスタート直後、クラークをリードする場面もあったが、43周目にコネクティングロッドが破損しリタイアした。

レース展開と結果

決勝レースは、クラークとスチュワートの激しいデッドヒートから始まった。クラークは2周目にスチュワートを抜き去りトップに立つと、その後も安定した走りでリードを広げていった。グラハム・ヒルは、序盤は順位を下げたものの、着実に順位を上げていき、最終的には2位でフィニッシュした。3位にはリントが入ったが、レース終盤までロータス勢の猛追を受けた。一方、スカルフィオッティは水漏れ事故により負傷し、レースをリタイアした。

クラークは、この勝利によってF1通算25勝目を挙げ、ファン・マヌエル・ファンジオが持つ最多勝利記録を更新した。ロータス勢の1-2フィニッシュという結果も、彼らの圧倒的な強さを示すものだった。

悲劇の幕開け

しかし、この勝利はクラークにとって最後のものとなった。ヨーロッパラウンドが始まる前の4月7日、ドイツで行われたF2レースで、クラークは事故により亡くなった。享年32歳。この衝撃的な事故は、世界中に深い悲しみをもたらした。

1968年南アフリカグランプリは、クラークの輝かしいキャリアの締めくくりであり、同時に、天才ドライバーのあまりにも早すぎる死を告げるものとなった。その衝撃は、レースの結果をはるかに超える、大きな意味を持つものだった。このレースは、多くのドライバーやチームにとっても、最後のF1レースとなった。ホンダRA300やブラバムBT11も、その幕を閉じた。

このレースを振り返ると、ジム・クラークという偉大なドライバーの記憶、そしてF1という世界の移り変わり、そして革新と悲劇が複雑に絡み合った、ドラマチックな開幕戦であったと言えるだろう。

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