1972年の航空

1972年の航空界

1972年の航空業界は、目覚ましい技術革新と安全性に関する厳しい現実が複雑に絡み合った一年となりました。新たな時代の幕開けを告げる宇宙開発計画が進展する一方で、痛ましい航空事故や前例のないハイジャック事件が多発し、空の安全に対する不安が高まりました。また、冷戦下の国際情勢を反映し、軍事航空分野でも重要な動きが見られました。

年の初め、アメリカは壮大な宇宙開発計画に乗り出しました。1月、ニクソン大統領は将来の宇宙輸送システムとなるスペースシャトル・プログラムに対し、巨額の資金を投じることを発表。これは、航空宇宙技術の新たな可能性を切り拓く決定となりました。その後、7月にはNASAがスペースシャトルの主契約企業としてロックウェル・インターナショナル社を選定。宇宙への往来をより現実的なものにする第一歩が踏み出されました。

民間航空分野では、企業の再編や新機体の登場がありました。4月には、英国の主要航空会社であるBOACとBEAが統合し、現在のブリティッシュ・エアウェイズが誕生。欧州における航空業界再編の波を示す出来事でした。同じ月には、アメリカのイースタン航空が当時最新鋭のワイドボディ機であるロッキード L-1011 トライスターの商業運航を開始。旅客輸送の快適性と効率性を高める動きが進みました。また、セスナ社が航空機メーカーとして初めて製造機数10万機を達成するなど、航空機の大量生産時代を象徴する記録も生まれました。

しかし、1972年は空の安全が大きく揺らいだ年でもありました。特に、航空機を狙った犯罪や事故が多発した点が特徴的です。1月には、JATユーゴスラビア航空のダグラスDC-9型機が飛行中に爆破されるという衝撃的な事件が発生。客室乗務員のヴェスナ・ヴロヴィッチ氏が奇跡的に生還したことで知られています。5月には、イスラエルのテルアビブ空港で日本赤軍による銃乱射事件が発生し、多数の犠牲者が出ました。さらに、ユナイテッド航空や日本航空など、複数のハイジャック事件が発生。武装した犯人による脅迫行為は、航空保安のあり方を根本から問い直す契機となりました。

重大な航空事故も相次ぎました。6月には日本航空のDC-8型機がニューデリー近郊で墜落し、多数の命が失われる悲劇が発生。同月には英国欧州航空のトライデント型機も墜落し、多くの犠牲者を出しています。10月にはウルグアイ空軍機がアンデス山脈に墜落し、極限状態での生存劇が世界に報じられました。そして、12月末にはイースタン航空のL-1011型機がマイアミ近郊で墜落。これは史上初のワイドボディ機による全損事故として、その後の航空機設計や安全対策に大きな影響を与えました。

軍事航空においては、ベトナム戦争が激化する中で重要な出来事がありました。アメリカ軍はレーザー誘導爆弾といった精密誘導兵器を実戦投入し、戦術に変化が見られました。また、ベトナム戦争におけるアメリカ空軍および海軍初の撃墜王が誕生するなど、空中戦での活躍も報じられました。冷戦下での軍備管理も進み、米ソ間では第一次戦略兵器制限交渉（SALT-1）に調印。一方で、NATO諸国は次世代の多用途戦闘機（後のトーネード）の開発契約を結ぶなど、新たな軍用機の共同開発も進められました。

この年は、航空史に名を刻む偉大な人物の訃報もありました。ヘリコプターのパイオニアとして知られるイゴール・シコルスキー氏が10月に、そしてソ連の著名な航空機設計者であるアンドレイ・ツポレフ氏が12月に死去。両氏が航空技術の発展に果たした貢献は計り知れません。

1972年は、技術革新による未来への希望と、避けられない事故や事件による困難が混在した、航空史において極めて多様な側面を持つ一年でした。これらの出来事は、その後の航空機の安全性向上や業界構造、さらには国際関係にも深く関わることとなります。

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