1978年の日本の女性史
1978年（昭和53年）は、日本の女性たちが社会の様々な側面で存在感を増し、同時に新たな課題が顕在化した一年でした。この年は、女性の働き方、権利意識、ライフスタイル、そして社会的な問題に至るまで、多岐にわたるできごとが報告されています。本稿では、特定の歴史観に基づくものではなく、この年に起こった出来事を通して、当時の女性を取り巻く状況を描き出します。
政府は初めて「婦人白書」を発表し、女性の労働力人口が全労働者の37.4%を占める2010万人に達した現状を明らかにしました。こうした状況を背景に、女性たちの権利を求める動きも具体化します。日本鉄鋼連盟では、女性社員たちが男女間の賃金格差や配転における不平等の是正を求め、東京地方裁判所に提訴しました。また、静岡労働基準監督署は、第一勧業銀行の浜松支店に対し、男女差別の是正を勧告しています。労働分野の法改正を目指す動きもあり、日本社会党は「男女雇用平等法案」を発表し国会に提出しましたが、残念ながら成立には至りませんでした。働く女性たちの現状を把握するため、労働省は雇用管理に関する実態調査を開始し、企業の初任給における男女差や、結婚・出産による退職制度の有無などを明らかにしていきます。労働基準法の女子に関する規定、特に時間外労働の制限や生理休暇の見直しについても、研究会が報告書を提出し、議論が深まりました。「行動を起こす女たちの会」は「主婦の失業者宣言」と題し、すべての女性に働く場を求めるなど、女性の労働環境改善は大きな焦点の一つでした。
国政の場では、赤松良子が総理府の婦人問題担当室長に、久保田真苗が国連の婦人の地位向上部長に就任するなど、女性が要職に就く動きも見られました。さらに、超党派の「国連婦人の十年推進議員連盟」が結成され、169名の議員が女性関連課題に取り組む姿勢を示しました。北海道を皮切りに各都道府県で「婦人行動計画」が策定されるなど、地方自治体レベルでも女性政策への関心が高まります。
女性たちのライフスタイルや消費行動にも変化が見られます。余暇開発センターの調査では、主婦の家事労働が月額6万円相当と試算され、その経済的価値が改めて認識されました。ファッション分野では、フランスのシャネルが日本に既製服のブティックを多数開店し、海外ブランドが身近になります。宝飾品では、ダイヤモンドを資産としてではなく、ファッションの一部として気軽に購入する女性が増え、小粒のダイヤモンドの輸入が急増しました。「ホワイトデー」がバレンタインデーのお返しの日として登場し、新たな消費習慣が生まれるなど、女性の消費力が市場に影響を与え始めています。また、女性専用ホテル「レディース・イン宝塚」が開業するなど、女性のニーズに特化したサービスも登場しました。女性ドライバーが1000万人を突破するなど、社会における女性の行動範囲は着実に広がっています。一方で、結婚の形にも変化があり、西ドイツの結婚情報会社が日本に進出するなど、新たな出会いの場が登場しました。
社会の変動の中で、若い女性を取り巻く問題も顕在化します。横須賀市では少女だけの暴走族がリンチ事件を起こし、初めて摘発されるという衝撃的な事件が発生しました。ディスコや深夜喫茶などで未成年者の一斉補導が行われた際、特に女子の「無軌道ぶり」が目立つと報告されるなど、若い女性の非行や問題行動が注目されます。また、警察庁の調査では、サラ金被害に関連して女性が売春を強要されるケースが報告されるなど、貧困や借金が女性を追い詰める実態も明らかになりました。育児に関しては、「赤ちゃん110番」の調査で、成長期に赤ちゃんに接した経験がないまま母親になる女性が増加している実態が示唆され、子育て環境の変化が課題として浮かび上がりました。タイ警察当局が、タイ女性の日本への渡航を巡る大規模なビザ偽造団の追及に乗り出すなど、国際的な人身取引の可能性も浮上しました。
女性を取り巻く状況に対し、様々な形で問題提起や運動が行われました。学術分野では女性学研究会が発足し、学問として女性問題を追究する動きが始まります。初の国際女性学会が東京で開催され、国内外の研究者が集まりました。市民運動としては、国際婦人年大阪連絡会が「出産白書」の中間報告を兼ねたシンポジウムを開催し、出産を取り巻く環境について議論しました。地婦連の事務局長は国連軍縮特別総会で平和と核兵器禁止を訴える演説を行い、女性の立場からの国際問題への関与を示しました。名古屋大学では、女子学生たちが「ミスキャンパス・コンテスト」に反対する運動を展開し、女性の評価基準やジェンダーロールに異議を唱えました。「女たちの映画祭」では、女性の視点で作られた映画が上映されるなど、文化活動を通じた意識啓発も行われました。「雇用平等法をつくる会」が結成されるなど、具体的な法改正を目指す草の根の活動も活発化します。行動を起こす女たちの会は、各政党の女性政策を問う集会を開催し、政治への働きかけを行いました。
女性の身体や健康に関する動きとしては、美容整形が医療法改正により「美容外科学」として正規の診療科名として認められ、医療としての認知が進みました。一方、人工妊娠中絶の実施期間が短縮されるなど、女性の身体に関わる制度や医療行為にも変更がありました。
1978年は、女性の社会参加が進む一方で、労働環境の不平等、若い女性の新たな問題、子育ての変化など、多岐にわたる課題が浮き彫りになった年でした。政府の「国内行動計画」についても、その存在を知らない女性が半数に上るという調査結果もあり、政策と国民への浸透の間には隔たりが見られました。この年は、女性たちが自己の権利や生き方について問い直し、様々な形で社会に働きかけ始めた、ダイナミックな変化の過渡期であったと言えるでしょう。
社会進出と権利を求める動き
政府は初めて「婦人白書」を発表し、女性の労働力人口が全労働者の37.4%を占める2010万人に達した現状を明らかにしました。こうした状況を背景に、女性たちの権利を求める動きも具体化します。日本鉄鋼連盟では、女性社員たちが男女間の賃金格差や配転における不平等の是正を求め、東京地方裁判所に提訴しました。また、静岡労働基準監督署は、第一勧業銀行の浜松支店に対し、男女差別の是正を勧告しています。労働分野の法改正を目指す動きもあり、日本社会党は「男女雇用平等法案」を発表し国会に提出しましたが、残念ながら成立には至りませんでした。働く女性たちの現状を把握するため、労働省は雇用管理に関する実態調査を開始し、企業の初任給における男女差や、結婚・出産による退職制度の有無などを明らかにしていきます。労働基準法の女子に関する規定、特に時間外労働の制限や生理休暇の見直しについても、研究会が報告書を提出し、議論が深まりました。「行動を起こす女たちの会」は「主婦の失業者宣言」と題し、すべての女性に働く場を求めるなど、女性の労働環境改善は大きな焦点の一つでした。
国政の場では、赤松良子が総理府の婦人問題担当室長に、久保田真苗が国連の婦人の地位向上部長に就任するなど、女性が要職に就く動きも見られました。さらに、超党派の「国連婦人の十年推進議員連盟」が結成され、169名の議員が女性関連課題に取り組む姿勢を示しました。北海道を皮切りに各都道府県で「婦人行動計画」が策定されるなど、地方自治体レベルでも女性政策への関心が高まります。
変化するライフスタイルと消費
女性たちのライフスタイルや消費行動にも変化が見られます。余暇開発センターの調査では、主婦の家事労働が月額6万円相当と試算され、その経済的価値が改めて認識されました。ファッション分野では、フランスのシャネルが日本に既製服のブティックを多数開店し、海外ブランドが身近になります。宝飾品では、ダイヤモンドを資産としてではなく、ファッションの一部として気軽に購入する女性が増え、小粒のダイヤモンドの輸入が急増しました。「ホワイトデー」がバレンタインデーのお返しの日として登場し、新たな消費習慣が生まれるなど、女性の消費力が市場に影響を与え始めています。また、女性専用ホテル「レディース・イン宝塚」が開業するなど、女性のニーズに特化したサービスも登場しました。女性ドライバーが1000万人を突破するなど、社会における女性の行動範囲は着実に広がっています。一方で、結婚の形にも変化があり、西ドイツの結婚情報会社が日本に進出するなど、新たな出会いの場が登場しました。
顕在化する課題と問題
社会の変動の中で、若い女性を取り巻く問題も顕在化します。横須賀市では少女だけの暴走族がリンチ事件を起こし、初めて摘発されるという衝撃的な事件が発生しました。ディスコや深夜喫茶などで未成年者の一斉補導が行われた際、特に女子の「無軌道ぶり」が目立つと報告されるなど、若い女性の非行や問題行動が注目されます。また、警察庁の調査では、サラ金被害に関連して女性が売春を強要されるケースが報告されるなど、貧困や借金が女性を追い詰める実態も明らかになりました。育児に関しては、「赤ちゃん110番」の調査で、成長期に赤ちゃんに接した経験がないまま母親になる女性が増加している実態が示唆され、子育て環境の変化が課題として浮かび上がりました。タイ警察当局が、タイ女性の日本への渡航を巡る大規模なビザ偽造団の追及に乗り出すなど、国際的な人身取引の可能性も浮上しました。
意識の向上と社会への働きかけ
女性を取り巻く状況に対し、様々な形で問題提起や運動が行われました。学術分野では女性学研究会が発足し、学問として女性問題を追究する動きが始まります。初の国際女性学会が東京で開催され、国内外の研究者が集まりました。市民運動としては、国際婦人年大阪連絡会が「出産白書」の中間報告を兼ねたシンポジウムを開催し、出産を取り巻く環境について議論しました。地婦連の事務局長は国連軍縮特別総会で平和と核兵器禁止を訴える演説を行い、女性の立場からの国際問題への関与を示しました。名古屋大学では、女子学生たちが「ミスキャンパス・コンテスト」に反対する運動を展開し、女性の評価基準やジェンダーロールに異議を唱えました。「女たちの映画祭」では、女性の視点で作られた映画が上映されるなど、文化活動を通じた意識啓発も行われました。「雇用平等法をつくる会」が結成されるなど、具体的な法改正を目指す草の根の活動も活発化します。行動を起こす女たちの会は、各政党の女性政策を問う集会を開催し、政治への働きかけを行いました。
身体と健康に関する動向
女性の身体や健康に関する動きとしては、美容整形が医療法改正により「美容外科学」として正規の診療科名として認められ、医療としての認知が進みました。一方、人工妊娠中絶の実施期間が短縮されるなど、女性の身体に関わる制度や医療行為にも変更がありました。
まとめ
1978年は、女性の社会参加が進む一方で、労働環境の不平等、若い女性の新たな問題、子育ての変化など、多岐にわたる課題が浮き彫りになった年でした。政府の「国内行動計画」についても、その存在を知らない女性が半数に上るという調査結果もあり、政策と国民への浸透の間には隔たりが見られました。この年は、女性たちが自己の権利や生き方について問い直し、様々な形で社会に働きかけ始めた、ダイナミックな変化の過渡期であったと言えるでしょう。
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