1988年の日本競馬

1988年の日本競馬

1988年（昭和63年）の日本競馬界は、東西の勢力図が大きく塗り替えられた年として特筆されます。長らく関東馬が優位を保ってきた大レースにおいて、この年から関西所属馬が台頭。年間を通して勝利数を関東馬から奪うのみならず、特にGI競走では圧倒的な成績を残しました。この関西馬躍進の背景には、1985年に栗東トレーニングセンターに整備された坂路調教コースが大きく影響したと言われています。

この年の主役は何と言っても、2頭の芦毛のスターホース、タマモクロスとオグリキャップでした。前年からの勢いを駆って古馬長距離戦線の中心となった5歳馬（旧表記）タマモクロスは、年明けから怒涛の連勝を続け、春の天皇賞、そして宝塚記念と難なく制覇。その連勝記録を7まで伸ばし、その強さを見せつけました。主戦騎手である南井克巳騎手にとって、天皇賞での勝利は初のGIタイトルとなりました。

一方、「怪物」と称された4歳馬オグリキャップは、地方の笠松競馬場で圧倒的な実績を引っ提げ、中央競馬へ移籍してきました。クラシック登録がなかったため、春は王道路線から外れ、マイナーレースを転戦しましたが、その実力は群を抜いていました。中央転厩後、ペガサスステークスから高松宮杯まで重賞を含む6連勝を達成し、瞬く間に中央競馬のトップホースへと駆け上がります。

秋、競馬ファンが最も注目したのが、この2頭の芦毛馬の対決です。先に始動したオグリキャップが毎日王冠を制して連勝を7に伸ばした後、両馬は天皇賞（秋）で初めて顔を合わせました。この大一番では、先行策に出たタマモクロスが、追い上げてくるオグリキャップを凌ぎきり、8連勝を達成。オグリキャップは中央移籍後初の土をつけられました。続くジャパンカップでは、外国からの招待馬ペイザバトラーが勝利し、タマモクロスが2着、オグリキャップが3着に敗れ、タマモクロスの連勝はここでストップします。

タマモクロスはこのレースを最後に引退することを表明し、有馬記念が2頭にとって最後の対戦となりました。雪辱を期すオグリキャップ陣営は、主戦騎手を河内洋から岡部幸雄へと変更するという大胆な決断を下します。迎えた有馬記念では、先行するオグリキャップに対し、タマモクロスは最後方から追い上げましたが届かず、オグリキャップが見事勝利を飾り、天皇賞秋のリベンジを果たしました。

この年、中央競馬の主要施設である中山競馬場がスタンド改修工事に入ったことも大きな話題となりました。春の開催の一部は東京競馬場や新潟競馬場で代替され、特に皐月賞が東京競馬場で開催されたことは異例でした。また、中山大障害（春）も東京競馬場で行われるなど、ファンや関係者にとっては変則的なスケジュールとなりました。工事は年末に完了し、有馬記念が開催された第5回開催からは中山競馬場での競馬が再開されています。

また、1988年は日本競馬の制度面でも変化がありました。優駿誌が長年行ってきた年度代表馬の選考が、この年から日本中央競馬会主催の「JRA賞」となり、新たな部門が設けられるなど、表彰制度が整備されました。調教師の定年が70歳に定められたのもこの年です。

若き才能の台頭も見られました。デビュー2年目の武豊騎手は、19歳にしてJRA通算100勝を史上最年少・最速で達成。さらに秋の菊花賞をスーパークリークで制し、クラシック史上最年少優勝記録を樹立しました。一方で、皐月賞と有馬記念で騎乗馬が失格となる経験もしています。また、河内洋騎手は、この年、自身が持つJRA重賞年間勝利記録を更新する13勝を挙げました。

競走馬では、サッカーボーイが函館記念で芝2000mの日本レコードを樹立し、マイルチャンピオンシップでも強い勝ち方を見せました。前年の年度代表馬サクラスターオーが怪我により安楽死の措置が取られたニュースは、多くのファンに衝撃を与えました。地方競馬では、東京ダービーがナイター開催となったほか、笠松や園田で新たな交流競走が創設されるなど、様々な動きがありました。

この年に生まれた競走馬の中からは、トウカイテイオーやナイスネイチャといった、後の競馬史に名を刻む多くの活躍馬が誕生しています。

1988年の日本競馬は、タマモクロスとオグリキャップという対照的な経歴を持つスターホースが激しい戦いを繰り広げ、ファンを熱狂させた記憶に残る一年でした。同時に、施設の近代化、制度改革、若手騎手の台頭など、現代の日本競馬へとつながる重要な変化が数多く見られた転換期であったと言えるでしょう。

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