1989年の日本の女性史

1989年 日本における女性の出来事

1989年は、昭和から平成へ時代が移り変わり、政治的にも大きな変動があった年です。この年、日本の女性を取り巻く環境も様々な変化と動きを見せました。

年の初め、1月には東京弁護士会が法務省に「選択的夫婦別姓採用に関する意見書」を提出するなど、法制度における女性の権利に関する議論が活発化しました。2月には女性団体が昭和天皇大喪の礼における政教分離について政府に申し入れ。教育分野では、小中学校の学習指導要領が改訂され、中学校の「家庭生活」などが男女共修、高校の「家庭」が男女必修となるなど、教育における男女平等の推進が進みました。

スポーツの世界でも女性の活躍が光りました。2月、橋本聖子選手が世界スプリントスピードスケート選手権で日本女子初の銅メダルを獲得。3月には、フィギュアスケートの伊藤みどり選手が世界選手権女子シングルスで日本人初優勝を果たし、国民を沸かせました。

社会的な動きとしては、新しいライフスタイルへの対応が見られました。3月、兵庫県三田市で「一代墓」が登場し、多様化する葬送のニーズに応えます。女性の権利を訴える活動も活発化し、4月には性暴力を許さない女の会や、出生差別法改正を求める女たちの会が集会を開催し、問題提起を行いました。

一方、女性に対する差別的な言動も問題視されました。4月には自民党の金丸信氏が女性候補者に対し差別発言を行い、7月には堀之内久男農林水産大臣も女性蔑視発言をするなど、政治家の無理解が露呈しました。

5月には、女優の和泉雅子氏が日本人女性として初めて北極点に到達する快挙を達成。政治参加への意欲を示す出来事として、5月には女性たちによる「シャドウ・キャビネット（影の内閣）」が組織され集会が開かれました。

文化の分野では、この年美空ひばり氏が逝去。7月には女性として初めて国民栄誉賞が授与されました。また、困難を抱える女性を支援する「女性の家HELP」は創設3周年シンポジウムを開催しました。

政治の世界では、特に7月の参議院議員通常選挙で歴史的な与野党逆転が起きました。日本社会党が大躍進し、女性候補者が過去最高の22人当選を果たし「マドンナ旋風」と呼ばれました。この結果を受け、女性問題も指摘されていた宇野宗佑首相は退陣します。8月には参議院で土井たか子氏が女性として初めて内閣総理大臣に指名されました（首相は海部俊樹氏）。また、山下徳夫官房長官辞任の後任に森山眞弓氏が就任するなど、女性閣僚の存在感も増しました。

社会に衝撃を与えた凶悪事件も発生しました。3月には女子高生コンクリート詰め殺人事件が発生。未成年の犯人による残虐な犯行は社会に衝撃を与えました。8月には東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人が逮捕・自供し、事件の異常性が明らかになりました。

8月には、日本で初めてセクシュアルハラスメントを問う民事訴訟（福岡セクシュアルハラスメント事件）が提起されました。これは職場におけるハラスメント対策に大きな影響を与えることになります。

秋には、山口県萩市の沖合に萩女子短期大学のユニークなキャンパスが出現しました。11月には厚生省による妊娠中絶の時期短縮方針に対し女性団体がシンポジウムを開催し、女性の身体に関わる問題についても議論が深まりました。また、11月には堺市で「ミス・コンテストはいらない！」が主催され、「ミスコン反対」論議が巻き起こりました。常寂光寺では独身女性のための納骨堂が完成しました。

年末にかけても女性関連の出来事が続きます。12月、森山眞弓官房長官が相撲の土俵に上がることを希望するも慣習により断念。また、日本シェーリング賃金請求事件では最高裁が生理休暇や産休による賃上げカットを違法と初の判断を下し、働く女性の権利保護に一歩前進。スポーツ分野では、12月に第1回全日本大学女子サッカー選手権大会が開催され、女子サッカーの普及が始まりました。

この年発表されたデータも、当時の女性の状況を映し出します。成人女性の飲酒率や急性アルコール中毒での搬送者が急増。文部省発表では、大学進学率が女性が初めて男子を上回る逆転現象。夫の家事分担率は依然低いものの、国際結婚、特に日本人男性と東南アジア出身女性との結婚が急増。東京の女性専用ホテルが大もてとなるなど、女性の多様なライフスタイルや社会進出が垣間見られました。

1989年は、女性の政治参加が大きく進展した一方で、差別や困難も存在した年でした。法制度の見直し、社会運動、個人の活躍、そして統計データに表れる変化は、その後の日本における女性の地位向上と多様化を予感させる一年であったと言えるでしょう。

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